経営戦略と人材戦略の連動を実現させたJ-WAVEの人事制度改革
株式会社 J-WAVE
クライアント業種
放送法による基幹放送事業 及び 一般放送事業
支援内容:経営戦略に基づく人材戦略の策定支援と人事制度改革
ビジネス環境が大きく変わる中で持続的な成長を図るべく、経営ビジョンや戦略を刷新する企業が増えている。東京のラジオ放送局 株式会社J-WAVEも、「既存の事業領域に留まらない新たな市場の創造」を掲げ、新規事業の創出などに取り組んでいる。同社は、新たな経営ビジョン実現のためには、旧来の年功序列型の人事制度や組織の抜本的な改革が不可欠と考え、セレブレインに支援を依頼し、改革に踏み切った。そしてビジョン実現に向けたマネジメントの役割の再定義や事業への貢献度に応じた報酬制度などを再構築した。同時に社員との丁寧な対話を積極的に行い意識変革にも取り組んでいる。これはまさに、経産省が提唱する「人材版伊藤レポート2.0」でも注目されている「経営戦略と人材戦略を連動させる」取り組みであり、持続的な成長につなげる人的資本経営の実践といえよう。
もちろん、これほど抜本的な改革においては、経営のコミットメントが不可欠だ。J-WAVEでは、コーポレートマネジメント局を管掌する取締役神田竜也氏の主導の元、経営企画や人事担当によるプロジェクトメンバーの努力が実った結果といえよう。今回は神田氏とセレブレインの代表取締役副社長高橋敦子が対談により、改革プロジェクトにおける課題や具体的な支援の内容について語りあった。
【対談者】
神田竜也 氏 株式会社 J-WAVE 取締役コーポレートマネジメント局管掌
高橋 敦子 株式会社セレブレイン 代表取締役副社長
新たなビジョン実現のために、なんとしても人事制度改革が必要だった
高橋:本日は、J-WAVE様の人事制度改革プロジェクトについて、神田様にお話を伺います。経営と人事、ともすると分断されがちですが、今回のプロジェクトでは取締役である神田様が強い覚悟で主導されて進められたことも大きなポイントと考えています。まず、改革に踏み切られた背景についてお聞かせください。
神田氏:J-WAVEは中期経営計画のビジョンとして、「デジタルイノベーションをともなう新たな事業価値の創造」を掲げています。事業環境が大きく変化し、人々のニーズも多様化するなかでも、J-WAVEが成長を続けるためには、事業戦略やミッション、ビジョンはもちろん重要ですが、やはりその根幹にあるのは人材です。世の中の変化や事業戦略に合わせて、人事制度のみならず組織の在り方から変えていかねば、持続的な成長は難しいでしょう。そこで、思い切った改革に踏み切ることにしたのです。
高橋:改革に取り組まれたのは今回が初めてではなく、以前もチャレンジされたことがあったのですよね?
神田氏:私の管掌部門が異なっており、改革に携わる前のことでしたが、何度か取り組んでいました。しかし人事制度は退職金や再雇用制度も複雑に絡み合っていることから、結局は頓挫してしまったのです。私としては、人事課題を解決せねばビジョン実現は遠のくばかりだと強い危機感を抱いており、何としても改革を実行しようと考えていました。そこで何社かのコンサルティングファームに相談した中で、改革への想いを汲み取り伴走してくださると確信したセレブレインさんにお願いすることに決めました。
将来のあるべき姿から施策を議論する「バックキャスト方式」で改革を実現
高橋:続いて、具体的なプロジェクト内容についてお話を伺います。やはり何をするにもまずは経営との合意形成が大きな関門です。特に今回の改革では、単なる制度だけではなくビジョン実現のための組織改革という側面もありました。その点で、ボードメンバーである神田様が率先して旗振りをしてくださり、経営陣の皆様のコンセンサスと強いバックアップがあったことは非常に大きかったと思います。
神田氏:過去に人事制度改革が実現できなかった要因のひとつは、経営陣の間での議論が建設的に進んでいなかったことです。なぜうまく進められなかったのかというと、制度を変えたいという時に、その目的や背景を議論せず、「この制度をこう変える」という細部の議論から入ってしまっていたからです。そうなると、一人ひとりの価値観や想いによって、意見はバラバラになるのは当然ですよね。この課題に対してセレブレインさんからご提案をいただいたのが、「バックキャスト方式」でした。
高橋:バックキャスト方式とは、まず未来のありたい姿をできるだけ具体的に共有し、そこをゴールにして詳細な制度の議論を進めることです。会社として「こうありたい」と描く未来図を持ち、それを拠り所としていけば、建設的な議論ができますし、スピード感をもってダイナミックな変革が可能となります。J-WAVE様の場合は、まず経営陣の方々とインタビューを行って、方針や方向性に対する共通認識を形成しました。その上で、制度設計の考え方を複数提案し、内容の理解と議論を進めさせていただきながら詳細な制度設計を詰めていきました。
神田氏:議論のベクトルが固まったことで、非常にスムーズになりましたね。最終的な目的は制度の中身をどう変えるかではなく、会社として何を目指しているかです。そのために必要な手段としての人事制度改革ですからね。
不明確だったキャリアパスやミッションを明確にした「トリプルラダー方式」
高橋:次に、実際の制度改革についてですが、まず大きな問題としては旧来の制度が終身雇用を前提とした年功序列制度であったことですね。
神田氏:まず前提として、J-WAVEの社員は真面目で一生懸命働く人材ばかりです。しかし、長年にわたり年功序列に基づいた制度を運用していたことから、様々な課題が発生していました。ひとつは、人員構成上の課題です。社員の高齢化が進むことで人事構成がいびつになり、ラインマネジメント以外にいろいろな名称の役職を生んでしまったことです。さらに、役職者が増えることで、それぞれの役割が不明確となっていました。
高橋:役割が不明確になると社員のキャリアパスも先が見えなくなります。そうすると、能力があって一生懸命働く人材であっても、「何のために頑張るのか」が見えず、モチベーションが低下してしまうことは否めませんね。
神田氏:そうなると、当社が掲げるビジョンの実現に向け、社員が一緒に走ってくれなくなります。ビジョン実現のためには、社員の意識も変えていく必要があります。そして意識を変えるには、仕組みを変えなければなりません。特に若手にとっては上が詰まっていて、頑張っても給料が上がりづらいということになれば、モチベーションが著しく低下する可能性がありました。それ以前に、採用選考の段階で辞退されてしまうかもしれません。彼らは仕事を通じて自身がいかに成長するかに価値を見出す傾向があります。だからこそ、役割を明確にして努力や成果を評価し、報酬や昇進に反映していく新しい仕組みをつくる必要がありました。そこで、年功序列型ではなく、果たすべき役割と貢献に基づく人事制度を新たに設計したかったのです。
高橋:ここでセレブレインが提案させていただいたのが、「トリプルラダー方式」と「役割等級の定義」です。以前の制度では、ラインマネジメントに乗れないとミッションが不明瞭になり、能力があっても、それを発揮できる最適な場に配置することが難しいケースがありました。トリプルラダー方式は、その課題を解決すべく、マネジメント職を3タイプに分け、本人の適性や実績、組織の状況に応じて任命する方法です。従来のラインマネジャーのほか、専門性を発揮して業績と人材育成に貢献するエキスパートマネジャー、職場で先頭に立って戦略推進を担うストラテジックマネジャーを新設し、それぞれの役割やミッションを明確に定義しました。さらに、7段階の役割等級を定義し、事業戦略やビジョン実現につながる評価項目や基準を整備。成果に応じた公正な報酬制度を設計して、一人ひとりが自身の役割を果たすべく能力を発揮していただける仕組みをご提案しました。
神田氏:これは本当に画期的なご提案でした。役割が明確になれば、キャリアの目標も描きやすくなります。もちろん目標設定は簡単ではなく、まだ試行錯誤の途中ですが、会社の成長目標と個人の成長目標が一致するようにという、「思考の軸」ができました。
それから、ラインマネジャーでなくとも、役割の貢献性に基づいて評価されるということも大きなポイントです。J-WAVEにはラインマネジメント以外にも番組制作やデジタル領域など、専門性の高い人材が多く働いています。トリプルラダー方式で彼らの役割を明確に定義し、その高度な専門性を発揮して事業に貢献してもらえば、本人の報酬も上がり会社も成長していくということになります。
高橋:これが、人的資本経営でいうところの経営戦略と人材戦略の連動による継続的な企業価値向上につながることになりますね。まさに人的資本経営の先進事例と言えると思っています。
新制度が機能するための現場の意識変革と新たな価値観や行動の醸成
高橋:こうして組織変革を伴う新人事制度を設計したのですが、制度は作って終わりではなく、社員の理解を得た上で運用することが大切です。特にJ-WAVE様の場合は、戦略やビジョン実現のための新人事制度ですから、社員の意識や行動面の変革も必要があります。そこでプロジェクトメンバーと議論を重ね「J-WAVE6つの行動基準」を具体化して新制度に組み入れました。新制度の説明会では、社員の皆さんに改革の背景や目的をオープンにし、丁寧に説明する機会を設けられました。
神田氏:会社がビジョンの実現に向けて進んでいくためには、経営と現場の社員がバラバラに頑張ってもうまくいかないと思います。皆が同じ意識を持って行く必要があります。これまでも社長から全社員に向けたメッセージは発信していたのですが、今回は人事制度と連携させたことで、社員にとってもより自分ごととして意識できるようになったはずです。自身の目標設定においても、その根幹には会社のビジョンや事業目標がありますから、より身近になることは確実です。
高橋:今回、特に力を入れたのは、先ほどお話ししたトリプルラダー方式など、マネジメントの役割をしっかりと認識していただくことです。課せられた役割と報酬水準の在り方なども十分に理解いただくためマネジメント研修も行いました。そして何より、神田様はじめ経営陣やプロジェクトのメンバーが今回の改革に対して強い意志を持って、真摯に社員の皆さんと向き合っていただいたことが大きいと思います。
神田氏:そこは特に意識して取り組みました。当社にはいわゆる労働組合はありませんが、賞与の交渉等で労使の話し合いを行ってきた「社員会」という社員の団体があるので、社員会を中心に全社員に向けて何度も話し合いを進めました。現行の制度を大きく変えるわけですから、当然疑問や反対意見もあります。そこで、疑問や不安などが残らないよう、徹底的に対話を行いました。その結果、自分たちの頑張りが会社の業績につながり、賞与として還元される新制度は、もともと仕事熱心な社員に理解してもらうことができました。
高橋:新しい賞与の仕組みについても、経営や業績の状況などをオープンにして、丁寧に説明されていらっしゃいましたね。
神田氏:そうですね。以前は賞与額決定にあたり、毎回「社員会」との交渉に時間がかかっていました。それが今回の新制度によって報酬や賞与の決定の仕組みが明示されたことにより、その都度交渉を行う必要がなくなったという、思わぬ副次効果がありました。今までかなりの時間とリソースを割かれていた賞与交渉がなくなったことで、社員も本業により集中できるようになったと聞いています。
高橋:それは非常に大きい成果ですね。労使交渉から解放され業務効率が上がったこともありますが、結果的に会社の業績につながり、報酬に反映される新人事制度の存在によって、モチベーションを高く保って働くことにつながるのではないでしょうか。
神田氏:これからも予想される変化の激しい市場環境や会社が置かれた状況の中で、これまで以上に創造性を発揮し、新しいことを見つけてチャレンジできる基盤となる仕組みを、セレブレインさんのおかげで作ることができたと思っています。
コロナ禍でのオンラインワークでプロジェクト完遂。今後の継続的支援を期待
高橋:今回はコロナ禍により、コンサルタントが現場に入ることがなかなかできませんでした。ミーティングもほとんどオンラインでしたから、温度感の違いがとても心配だったのですが、いかがでしたか?
神田氏:確かにオンライン主体でしたが、ミーティング以外のやり取りはSlackを活用したことで、一体感を持って進めることができたと思います。メールなどではできない、ちょっとした相談や資料のやり取りもSlackできめ細かくカジュアルに対応していただいて、本当に助かりました。本当に、オンラインだからという距離感は一切感じなかったですね。
高橋:確かに、Slackのおかげで距離感はかなり近かったですよね。J-WAVE様は使いこなしていらっしゃるので、まるで同じ空間で仕事をしているようにコミュニケーションがとれ、スムーズにご支援できたと思います。では最後に、今後の計画についてお伺いできますか?
神田氏:J-WAVEでは、デジタルイノベーションを伴う新たな事業価値の創造に向けて、新規事業創出を目指しています。そしてJ-WAVEは東京の放送局ですから、「東京のポップカルチャーを世界に発信する」というビジョンを3年後の姿として掲げています。それを社内各局の具体的な目標に落とし込み、役割を明確にして取り組んでいるところです。そのためにも、今回の新人事制度の本格的運用にとどまらず関連する教育制度の整備、再雇用制度、退職金制度改革などトータルで見直しが不可欠になります。今後もセレブレインさんには継続的なご支援をいただけることを期待しています。
高橋:私たちもJ-WAVE様の今後の成長が楽しみです。引き続きご支援を続けさせていただければ幸いです。本日はどうもありがとうございました!
人事制度改革を実現させたプロジェクトメンバーの皆さん
左から宇治さん、小方さん、早坂さん、神田さん、斎藤さん
セレブレイン社コンサルタント
プロジェクト統括責任者 秋田 康夫
プロジェクトリーダー 大石 俊太郎
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