コラム
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AI時代の「新たな働き方改革」と人事データの活用
はじめに
テレビなどのメディアでAIがプロ将棋名人に勝利したニュースが大きく取り上げられていましたが、今やAIや機械学習に関する記事を見ない日はないほどに注目を浴びています。さまざまな職種で、人が行っていた仕事をAIが取って代わる状況が生まれつつあり、これからの働き方改革は「AIを実装したシステムや機械といかに共存していくのか」が主要なテーマになるのではと予想されます。
企業の人事部門でもAIを活用した採用選考や人材配置に取り組む例が出てきています。また人事データの分析にAIを活用し、新しい気づきや発見を得て、経営課題の解決に取り組む動きもあります。
今回は、これらの人事データ分析におけるAI活用のメリットと成功のために欠かせないデータ準備の在り方についてお話ししたいと思います。
1.人事領域でAIを活用するメリット
人事部門では、採用時の選考情報を始め入社後の人事考課や研修、日々の勤怠、エンゲージメントサーベイなど社員のさまざまな情報を管理しています。しかしながら、これまで多くの企業では個別のテーマごとにデータを分析して課題や傾向の把握に取り組んで来ましたが、広範な人事データを統合・集約して分析するケースはほとんどありませんでした。例えば、採用時の情報は採用業務だけに活用され、入社後のパフォーマンスやキャリアプランとの相関を分析し、活用することはなかったようです。
ExcelやBIツールを使用した分析では、人間がその特徴を識別する必要があったため、大量かつテーマの異なるデータを複合的に分析しにくいことも要因の一つでしょう。AIや機械学習を活用した分析では大量のデータを高速に分析し、その特徴を識別することができ、蓄積されたあらゆる人事データを活用することで従来人間では判別が難しかった課題や傾向に対する洞察を得ることが可能になりました。
例えば離職率の高さに悩む企業では、これまでは社員が申し出た時に初めて退職の意思に気づき、引き止めても手遅れの状況が多くありました。もしAIを活用して自社の退職者の傾向を分析し、事前にそのリスクを察知することができれば、早期に打ち手を講ずることができます。
社員一人が退職した場合、職種にもよりますが、新たな人材の採用と育成のコストは年収の50%〜100%程度必要との試算があります。AIを実装した退職リスク分析によって退職の可能性が高い傾向にある社員への早期対応をはかり、退職率とコストを大幅に改善することが可能になります。
その他にも次のようなテーマに対してもAI分析によるアプローチをすることが可能になると思います。
・採用時における入社後の活躍度合いの予測
・エンゲージメントと業績の関係
・効果的な異動パス・キャリアパスの発見
・組織やチーム別のパフォーマンスの差異要因
2.人事データ分析前のデータ準備のつまずきやすいポイント
AIや機械学習のアルゴリズムはデータに基づき、人間の目では判別が難しいパターンやトレンドを発見できますが、読み込むデータが多ければ多いほど、その精度は高まるため、分析前のデータ準備が重要になります。私自身もデータ分析を始めた当初は、戸惑うことが多くありました。
人事データ分析を行うには、まずその目的を明確に定めることがポイントです。データの活用は、より適正な意思決定をするためです。AIは大量データ処理が得意ですが、「データ分析を行えば、何かわかるかもしれない」といきなり多様なデータを投入しても機能しません。まずは分析の目的を明確にした上で、そのために必要なデータを準備することが不可欠です。
次に、各人事データに関する分析が可能となるように連携・統合することが必要になります。社員属性データ、勤怠データ、評価データなどが個別のシステムで管理されている企業も多いため、いざ分析しようとしても、システムごとに管理対象の社員が異なっていたり、タイムリーに収集できなかったりするケースがあります。ここではデータアナリティカルスキルを持つメンバーが中心となって必要なデータをいつでも利用できる体制を整えておくことが求められます。
そして最後に、将来に備えて人事に関する情報をできる限りデータ化しておくことがポイントです。パフォーマンスやキャリア分析にはある一定期間に渡るデータが必要となるため、データの蓄積期間が長いほど有用な分析結果を得られる可能性が高くなります。採用、異動、評価、昇進・昇格などのさまざまな情報をできる限りデータ化し、保管しておくことが活用につながります。
最後に
AIや機械学習では、大量データを高速に分析し、これまで人間が見逃していた事象に対する洞察をもたらしてくれます。しかし、あくまでもデータ分析は、経営課題の解決に向けた意思決定を支援するツールであることを忘れてはなりません。
AI時代に向かう中で、多くのビジネスシーンでデータを有効に活用するためのナレッジやスキルがますます重要になってきます。「AIを有効に活用した働き方改革」の実現には、データの分析結果や予測から実践的意思決定につなげる分析的な思考法「アナリティカル・シンキング」が不可欠になるでしょう。私自身も「アナリティカル・シンキング」を学んで以降、これまでの先入観や主観的な見方ではなく、かなり客観的かつ分析的な思考とアプローチができるようになりました。
次回のコラムでは、このデータ分析に必要な思考法である「アナリティカル・シンキング」に触れたいと思います。