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1on1導入で失敗しないための、フィードバック活用法

1on1導入で失敗しないための、フィードバック活用法

コミュニケーション機会の創出や部下の状況把握を目的に、1on1を導入する企業が増えています。しかし、1on1を定期的に行っているのに部下のエンゲージメントは上がらず、いつのまにか形骸化してしまう…そんな悩みを抱える企業は少なくありません。その要因のひとつに、「日常のフィードバックが機能していないこと」が挙げられます。コミュニケーションの文化を醸成するためには、定期的な1on1の機会も大切ですが、それ以上に日常の適切なフィードバックが欠かせません。そこで今回は、1on1をより効果的にするためのヒントとして、1on1と日常のフィードバックの正しい使い分けや、それぞれの実施ポイントなどを解説します。

A社からの相談内容にみる企業の課題感

先日、お客様であるA社から「1on1を導入したものの期待していた効果が得られていない」というご相談を受けました。

A社ではエンゲージメントサーベイの結果から組織におけるコミュニケーションに課題があると感じ、上司と部下のコミュニケーション活性化や心理的安全性の担保、さらにそれらを人材育成につなげることを目的に1on1を導入しました。基本的にマネージャーとメンバーの間で月に1回以上、1回あたり30分くらいのペースで開始し、当初は人事側も大きな問題は感じていなかったそうです。ところがあるとき、社内で1on1に関するアンケートを取ってみると、「効果を実感している」という声は少なく、なかには「わざわざこのために時間を使う必要があるのか」といった辛辣な意見もありました。実際に職場のコミュニケーションが大きく活性化したとも感じられず、最終的に弊社にご相談いただいたのです。

A社のような課題を抱えている企業は少なくありません。「1on1を実施する目的が曖昧」「実施率が低下・形骸化している」「そもそも業務が多いため、時間を確保しづらく、負担が大きい」といった声もよく耳にします。

「フィードバック」と「1on1」は何が違う?目的別の使い分けとは

1on1がうまくいかないケースの背景で最も多いのが、「日常におけるフィードバックが機能していないこと」です。1on1を正しく機能させるためには、大前提として、日々の仕事においてメンバーとの関わりを密にすること、そして日常的にフィードバックをすることが欠かせません。

このように書くと、「関わりを密にし、フィードバックをするために1on1を導入しているのに…」という声が聞こえてきそうです。

しかし、フィードバックにおいて重要なポイントとは何でしょうか。それは、「改善点が見つかったらすぐにフィードバックをすること」、そして「できるだけ具体的に行うこと」です。何か気づいた点などがあっても、それを例えば月に1回や週に1回の1on1まで待ってから話すとなると、お互いに思い出しづらく、精度が落ち、効果も薄れてしまいます。特にアジリティの高い組織を目指すのであれば、速やかに問題解決することが求められるため、早期のフィードバックが好ましいでしょう。人材育成のためのフィードバックは、タイミングを逃さず、具体的な内容を心がけること、そして対話を通じて相互理解を深めることが重要です。

「すぐに」「具体的に」を意識して行うべきフィードバックは1on1では扱いません。では、1on1はどういった目的で実施すべきなのでしょうか? それは、「日常業務ではフォローできない領域をケアし、リテンションやモチベーション向上を図ること」です。

1on1で取り扱うべきトピックとは?

1on1の場で取り上げるべきトピックとしては、大きく3つのテーマが挙げられます。まず1つ目は、「機会を設けないと見過ごされてしまうもの」です。例えば、メンバーのプライベートな状況や職場の人間関係、心身の健康状態などは、日常業務の中ではわかりづらく、定期的に行う1on1の場でなければ見逃されてしまう可能性があります。

続いて2つ目は、「時間軸が長いもの」です。キャリアプランのような長期的な視点を要する話題も1on1の場でなら深く掘り下げて聞くことができるでしょう。

そして3つ目は、「マネージャーから見えづらいもの」です。例えば、メンバーが抱えている意見や悩み、日々の業務に対する個人的なこだわり、課題認識なども、1on1を通じて共有することで相互理解が深まります。

これらのトピックは日常のフィードバックではなかなか取り扱いづらいですし、まとまった時間を確保して話すことが望ましいものです。そのため1on1が適しています。メンバーのリテンションやモチベーションの維持・向上を目的とすることで、マネージャーにとっても1on1の目的が明確になり、取り組み方が変わってくるはずです。

1on1で取り扱うべきトピック

  1. 機会を設けないと見過ごされてしまうもの
  2. 時間軸が長いもの
  3. マネージャーから見えづらいもの

1on1の実効性を高める工夫

1on1の実効性を高めるためには、メンバーの習熟度や事業の変化スピードなどを考慮して頻度を調整することが大切です。高頻度でルール化すると負担感が大きくなりやすいため、負担感と業務負荷とのバランスを常に見直しながら進めていきましょう。

もし日々の業務過多によって1on1が実施しづらいようであれば、ルール化された1on1を無理に推し進めるのではなく、必要に応じて1on1を気軽に持ち掛けられるような風土作りを目指したほうがよいかもしれません。いずれにしても導入する際には、頻度の目安や実施の目的についてマネージャー側とあらかじめ協議し、しっかりと認識を合わせておくことが重要となります。

1on1の実効性を確保し、仕組みを形骸化させないためには、現場の人たちの生の声を聞くなど、幅広く意見を収集することも重要です。実施回ごとに感想を記録・共有できる機能を持つ1on1支援ツールもありますが、毎回の結果を見て一喜一憂するのではなく、ある程度まとまった期間で見るなど、大局的な記録として捉えるのがよいでしょう。

コミュニケーション文化の醸成に向けて

1on1は確かに重要なコミュニケーションの機会ではありますが、それだけで十分とは言えません。あくまでも日々のコミュニケーションの上にフィードバックがあり、その上に1on1の場を設けることで初めて効果が高まるということを理解する必要があります。つまり1on1は、日常のコミュニケーションを補完して、より深い信頼関係を築くための貴重な機会として位置づけるべきなのです。

日々のフィードバックと1on1を適切に組み合わせ、継続的に改善を重ねることで、より効果的な人材マネジメントが可能になります。1on1と日々のフィードバックの連動は、組織のコミュニケーション文化を形成する重要な施策です。こうした取り組みを通じて、オープンかつ建設的な対話が日常的に行われる組織風土を醸成することが、長期的な組織の成功に繋がるでしょう。

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