コラム
レポート
2019年 HR Technology Conference & Exposition in Las Vegas 現地レポート!(Part1)
はじめまして。セレブレイン社のシリコンバレー駐在コンサルタントの小野孝太郎です。
1997年に始まった「HR Technology Conference & Exposition」は、今年で22回目を迎え、10月1日〜4日までの4日間、ラスベガスでの開催となりました。
HR テクノロジーに関する世界最大級のイベントとして、今年は450社以上の企業が出展し、201のセミナーやセッションが開催されました。初日は午後5時のEXPO会場のオープン前から写真のように大行列となっていました。
私は10月1日と2日の2日間参加してきました。現地の様子を二回に分けてお伝えします。なお、私は現職になる前はOracleのシリコンバレー本社でDatabaseの開発エンジニアを21年していました。HR業界は入って間もないですがエンジニア目線でレポートできればと思います。
まずPart1では二日目に行われた、HRTech業界では有名なJosh Bersin氏によるキーノートと”Hype Cycle”で有名なGartnerのRon Hanscome氏によるセッションについてレポートします。
1.Josh Bersin氏によるキーノートセッション
Josh Bersin氏が今年の基調講演で最も重要なキーワードとして、特に強調したのは”The Employee Experience”でした。
このコンファレンスに出展しているベンダーが450社以上もあるように、HR Tech業界は群雄割拠の状態です。AWSなどを筆頭にクラウドテクノロジーの発展によりIT業界への参入障壁が大きく下がったことで数多くの起業家がプロトタイプをあっという間に作りVCから資金調達をして急速に製品化していっています。
そんな中で起きている大きな流れが二つあると理解しました。一つはなんらかの革新的なイノベーションを起こすこと。そしてもう一つは本質的な機能は同じでもユーザーエクスペリエンスを向上させることです。前者はAI, ML, IOT, ロボティクス、バイオなどテクノロジーを使ったイノベーションと、Uber, Airbnbなどに代表されるシェアリングエコノミーなどのビジネスモデルのイノベーションに分けられるでしょう。ユーザーエクスペリエンスのほうでは今年大型上場したzoomやslackが代表的です。どちらも本質的な機能に目新しさはありません・・・つまりビデオ会議とチャットです。しかしどちらもユーザエクスペリエンスに革新を起こすことで熱狂的なファンを増やしてきました。シリコンバレーの自宅とシェアオフィスを拠点にしている私も今やzoomやslackは日々の仕事に欠かせません。
話をJosh Bersin氏のキーノートに戻すと、HRの世界においても、これまで提供されてきたシステムの多くは、タレントマネジメントを含めて人事部門が使用するためのシステムが主流でした。それが今大きく変わろうとしていて、これからは従業員が使用することに焦点を当てたシステムが求められる時代がやってきたということです。
エンプロイーエクスペリエンスに焦点があたっているのは、ミレニアム世代が世界の労働力の多くの占めるようになったことや優秀な人材の獲得競争、燃え尽き症候群への対応などが要因であり、従業員の経験を第一に考え、創造性を引き出していくことが企業の成長につながることに言及していました。
従業員中心のアプローチになることで、HRテクノロジーのプラットフォームも進化し、スマートフォンのようにアプリケーションを入れたり削除したりするプラットフォームになることや多くのベンダーが提供する様々な機能を統合的に使えるプラットフォームの重要性を強調していました。
2.Gartner社のセッション
GartnerのRon Hanscome氏のセッションでは、有名なHype Cycleを用いてHRテクノロジーにおけるトレンドが紹介されました。中でも”Innovation Trigger”のフェーズにある以下の5つについて解説をしていました。
- Internal Talent Market Place
- Employee Experience Technologies (EXTech)
- AI in HCM
- Flexible Earned Wage Access (FEWA)
- Voice of the Employee
AIやMLなどの最先端のテクノロジーが活用されるエリアは、AI in HCMとVoice of the Employeeです。
AI in HCMでは、人材採用においてたくさんいる候補者の中からいかにして最適な人材を選んでいくかが、大量に応募者がいる大企業では特に大きな課題であることが示されました。求めている人材にマッチした候補者をいかにAIやMLを活用して、バイアスを排除しつつ、精度高く選んでいくのが重要となります。その他、社内での人事への問い合わせをチャットボットで行うことで人事部門の業務を効率化すること、従業員の学びを支援すること、例えば次にどのようなスキルを身につけていくべきか?などを大量の人材の情報からリコメンドするようなアプリケーションが紹介されていました。
AI in HCMから独立して取り上げられたVoice of the Employeeでは、従業員の「状態」をインプットとしてその従業員に対してどのような働きかけをするのが適切かといったアクションを支援するテクノロジーが取り上げられました。例えばサーベイを行った結果、エンゲージメントが低い従業員にどのような働きかけをするか示唆を示してくれる、などといったことです。自由記入の設問では中身に目を通すこと自体が、大きなコストになります。そこをAIで判断するというわけです。
話の中で面白かったのは、従業員の「状態」を把握するデータソースとしてサーベイだけでなく、ソーシャルメディアでの発言、場所、社内でのメールやチャットでのコミュニケーション、カレンダーに入っている予定、表情、果ては体に埋め込んだマイクロチップなどあらゆる情報がインプットとして考えられる。もちろん個人情報の保護には充分に気をつけなくてはならないという話もしていました。なんだか従業員の幸せというよりも、会社に監視されすぎている感じがしたのは私だけでしょうか。本当に企業で働く従業員の幸せを追求し、そのための手段としてAIが活用されていく世界になることを願いたいです。