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ビジネスと組織と人の感性(最近の大手航空会社のニュースから)

ビジネスと組織と人の感性(最近の大手航空会社のニュースから)

 オーバーブッキングのために乗客を引きずり下ろした大手航空会社のニュースが大きく取り上げられています。一度批判の的になってしまうと、あらゆる事柄が会社の体質の裏付けのように報じられ、SNS上でも、「If we can’t seat you, we will beat you(シートがご用意できない場合は、代わりに打撃を差し上げます)」といったごろ合わせキャッチフレーズやヘルメットをかぶって搭乗した写真が投稿されるなどのネガティブキャンペーンに見舞われ、大きな企業リスクになってしまいます。

 この「事件」には様々な要因があると言われていますが、航空会社間の競争が過熱状態にある中、オーバーブッキングの調整難易度が高まっていることも背景にあったようです。
また乗客が搭乗する前に解決できなかったことについては、搭乗案内までのプロセスに何らかのミスがあった可能性を指摘する声もありました。

しかしながら、人事・組織的な視点で考えてみると、現場の個々の社員の中でビジネスの本質に対する感性が鈍くなっていたという感想を持たざるを得ません。目の前で起きていることを誰も「重大な事件」と認識せず、ルールに従って行動しただけと考えていたことがそれを裏付けています。

 多くの会社と同様、この航空会社もHP上にミッション・バリューを掲げています。そこには「信頼性」「ホスピタリティ」「顧客第一主義」など、会社の価値観を表す言葉が明記されています。

しかしこの「事件」の現場の社員はバリューと逆の行動を実践したことになります。一部には疑問を持った社員がいた可能性はありますが、行動に移すまでには至らなかったのでしょう。

スカイトラックス社によるエアライン顧客満足度ランキングによれば、この航空会社は、最近5年間だけでも50位以下と低迷していることを考えると、これは突発的に起きてしまった不幸な「事件」ではなく、組織と現場の感性が常態的に鈍い状況にあったからこそ起きたといえます。

 本社サイドはミッション・バリューをどのように現場へ浸透させていたのか、現場は本社からの指示やマニュアルに盲従していただけなのか、現場のマネジャーはマニュアル通りに事を運べば責任を全うできると考えていなかったかなどなど・・。もとより航空会社は安全が第一であり、ルールやマニュアルは確かに重要であるが、この「事件」の根底には、ビジネスと組織と人を結びつける感性の鈍化が感じられてなりません。

 ビジネスと組織と人を結びつける感性で重要になるのは、「会社の理念」と「現場組織のプロセス」と「人の判断」の一体性です。今回の「事件」は、この一体性に大きなギャップが生じていたということです。

適正なビジネスの推進は、現場組織で行動する人の感性をどのように育成強化するかにかかっています。その中身を分解すると、まず会社がビジネスを推進するためのビジョン・ミッション・バリュー、期待する社員像、目標としてのKPIなどを人事的な仕組みとして明確にすること、さらにそれをリードし補完するトップのメッセージ、現場のマネジメントスタイル、オープンなコミュニケーションなどの社風を醸成することが重要になります。

 この航空会社の問題は、他山の石ではありません。どの企業にも事件や問題が起きるリスクがあります。そのような場合こそ、チャンスととらえ、しっかり事件や問題の背景や本質を見極め、適切な改善策や対策をとることです。失敗を繰り返す企業は、問題の本質から目をそむけ、上辺だけの対応でお茶を濁している可能性が高いのです。前述した人の感性を育成強化する仕組みやプロセスにも着目し、問題の本質を解明するところから始めたいものです。

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