人事施策 2022年10月17日 自律型組織を考える(2)「ホラクラシー組織」 ホラクラシー(holacracy)とは役員、部長、課長などの階級や役職がなく、上司・部下といった上下関係もない組織体制のことを指します。従来のヒエラルキー型組織と相反する新しい経営手法として注目されており、生産性の向上やストレスの軽減ほかさまざまなメリットが指摘されています。本記事では、ホラクラシー組織が登場してきた背景、具体的なメリット・デメリットを解説します。 [目次] ホラクラシー組織の特徴とは? ホラクラシー組織が導入された背景 ホラクラシー組織のメリット ホラクラシー組織のデメリット・注意点 まとめ ホラクラシー組織の特徴とは? ホラクラシー組織とは、日本に従来から根づいている「中央集権型・階層型」のヒエラルキー組織に対して、「分散型・非階層型の組織」とも呼ばれます。組織の決定権は一部の上級管理職ではなく、社員が所属するグループに委ねられます。 社員全員に「役割」が与えられグループ内で個々が意思決定を行います。経営に対しても社員全員が発言権をもち、評価や査定も社員全員で実施するケースが多く見られます。 ホラクラシー組織が導入された背景 ホラクラシーは、2007年に米国のIT企業創業者、ブライアン・ロバートソン氏によって提唱されました。背景には世界のグローバル化、デジタル化があります。一部の管理職のみが重要情報を持ち意志決定するヒエラルキー型組織では、市場環境の変化の速さに対応しきれない課題があり、その解決のために創出されたと言われています。 ロバートソン氏の執筆した『HOLACRACY(ホラクラシー)』には、ホラクラシー組織は「55分で33議題の処理をも可能にするプロセスである」とあり、非常に効率的であることがうかがえます。 米国のネット通販企業ザッポスをはじめ世界で数百社が導入しているほか、日本でも不動産テックベンダーのダイヤモンドメディア、民泊情報サイトAirbnbなどが導入し注目を浴びています。 ・ホラクラシー組織とティール組織の違い ホラクラシー組織は「ティール組織」とよく混同されます。ティール組織とは「組織に関わるすべての人のために組織がある」という考えに基づき個々のメンバーが自律的に組織の目的に応じて行動する組織形態です。 ティール組織が広義の、ある意味では抽象的な「概念」であるのに対して、ホラクラシー組織は一つの明確な「ビジネスモデル」を提示しているところが違っており、わかりやすく言うとティール組織を構築する形態の一種として、ホラクラシー組織があると言えます。 ・ホラクラシーの解釈の注意点 ホラクラシー組織はしばしば誤解されますが、社員とグループは会社組織というグループに属するため、必ずしも「フラットな組織」ではなく、グループごとにファシリテーターをたてて進行するなど状況に応じて管理体制もつくるため「管理者がいない」ことにもあてはまりません。 上下関係がないかわりに「ホラクラシー憲法」というルールがあり、グループ運営の仕組みや意思決定のプロセスは規定されています。 ホラクラシー組織のメリット ホラクラシー組織のメリットには以下の点があります。 ・生産性・自律性の向上 意思決定スピードが早くなることで生産性向上につながります。また、社員の役割が明確かつ裁量権があるため自律性につながり、また業務に集中しやすいためモチベーションが上がることも期待できます。 ・多様なアイデアの創出 個々の意見が尊重されるため多様な意見が集まり、コミュニケーションも活発になるため新しいアイデアが生まれやすくなります 。 ・ストレス軽減 上下関係がなくなり、また個々やチームの目的や情報がオープンになるため、理不尽な要求・パワハラ・社内政治などが生じづらくなり、社員がリラックスして役割に集中できます。 ホラクラシー組織のデメリット・注意点 デメリットと注意点としては以下が挙げられます。 ・導入・実施コスト ヒエラルキー型組織は長く社会的に浸透しているため、企業にホラクラシーの考え方や意義を浸透させるには相応の時間を要するでしょう。 ・組織管理がしにくい ホラクラシー組織にはグループのリーダーは存在しないため、組織全体を統括してコントロールすることが難しい面があります。 ・リスク管理に注意を要する 個々の社員が意思決定の権限をもつため、何人もの承認を得るプロセスがない代わりに、リスク判断についても個々の裁量に委ねられる部分が大きくなります。また、情報をオープンにする必要があり、社内の誰もが情報にアクセスできるようになるため、機密情報の管理にも、より注意が必要となります。 まとめ ホラクラシー組織は、市場の変化の速さに対応しやすい非常に効率的、機能的な組織形態だと言えるでしょう。ヒエラルキー型組織から急激にホラクラシー組織に転換することは、評価・処遇の問題や心理的契約等の観点からもハードルは高いのですが、自律型組織を目指すうえでは参考にすべき組織モデルだと言えます。 JOB型雇用 ブライアン・ロバートソン ホラクラシー
人事施策 2022年2月21日 今さら聞けない「メンバーシップ型雇用」と「ジョブ型雇用」 世界経済に暗い影を落とし続けている新型コロナウイルス。一方、アフターコロナを見据えた取り組みとして、これまでの働き方を見直す企業の動きが強まっています。そうしたなかで注目を集めているのが従来の日本型雇用と言われる「メンバーシップ型雇用」から「ジョブ型雇用」への転換です。今回は「メンバーシップ雇用」と「ジョブ型雇用」についておさらいしながら、「ジョブ型雇用」が注目される理由について解説します。 [目次] 「メンバーシップ型雇用」の特徴とは 「ジョブ型雇用」の特徴とは ジョブ型雇用が注目される理由 まとめ 「メンバーシップ型雇用」の特徴とは メンバーシップ型の雇用とは「人」に仕事を割り当てる雇用形態です。日本型雇用とも呼ばれているとおり日本企業で広く浸透しています。 新卒採用の際に特に顕著ですが、メンバーシップ型雇用では採用段階で業務内容や勤務地などが限定されません。「人」あっての雇用契約なので採用基準も「どのくらい成長しそうか」「長く貢献してくれそうか」が重視されます。会社方針による転勤や配置転換に従業員は基本的に従うことになります。 企業にとっては長期的に人材の育成・定着に取り組みやすいメリットがあります。従業員にとっても新型コロナウイルスのような予期せぬ環境変化で事業が縮小しても、雇用が維持されやすいメリットがあります。 一方、メンバーシップ型雇用は生産性の向上や人件費の抑制を難しくする面があります。育成や待遇が横並びになりやすいため、たとえば評価制度や人件費にメリハリをつけて最適化したい、といった場合に制度設計の難易度が上がります。 しかし、厳しい市場競争にさらされる昨今の企業は常に生産性向上や人件費の抑制を求められます。また、従業員の価値観も変化し、不本意な人事ローテーションや年功ベース賃金に疑問を感じた人材が、自分のキャリアを最大限に生かせ、かつ正当に評価してくれる人事制度のある企業に転職するケースも増えています。 このような背景もあり、メンバーシップ型雇用は転換点を迎えていると言われ、かわりに注目を浴びているのが「ジョブ型雇用」です。 「ジョブ型雇用」の特徴とは ジョブ型雇用とは「仕事」に人を割り当てる雇用形態です。採用時は自社が求める成果と必要な職務遂行能力を明確にします。企業と求職者は職務・勤務地・労働時間等に合意して雇用契約を結びます。 企業にとっては獲得した人材に高い専門性と生産性を期待できるメリットがあります。成果ベースでの評価もしやすくテレワークとの相性が良いため、コロナ禍で特に注目を集めることになりました。 従業員にとっては、自分の得意な分野に集中でき、専門スキルを高めやすいというメリットがあります。また、若者や女性なども属性で制限されることなく早期にキャリアを積み上げられる傾向にあり、ダイバーシティが進むとも言われています。 ジョブ型雇用が注目される理由 ジョブ型雇用については内閣府や日本経済団体連合会(以下、経団連)が言及しています。 経団連は、2022年1月18日に発表した『2022年版経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)』で、「ジョブ型」について「導入・活用の検討が必要」と明記しました。 報告では、各企業が自社の事業戦略や企業風土に照らして、組織としての生産性を高めるべく、メンバーシップ型を活かしながらジョブ型を最適に組み合わせた、「自社型」雇用システムをつくり上げていくことが大切だとしています。 過去に記者会見で今後の雇用について「顧客と共に考え付加価値を提供するビジネスモデルへの転換に対応できる人材は日本型雇用システムで育ちにくく、ジョブ型雇用などと組み合わせていくことになるであろう」と発言しています。 すでに資生堂、日立製作所、富士通、KDDI等、ジョブ型雇用の導入を図っている企業も現れています。一方で、多くの日本企業は転換に慎重です。 ダイキン工業の井上礼之会長は、2020年8月の朝日新聞紙上において「遅咲きの人もいる」と、昨今の働き方の変化に懸念を示しています。日本企業の能力開発費が減少傾向であることも懸念点の一つとして挙げられます。 失業率の低さや新卒の育成など従来の日本型雇用の良さも見直される中でのジョブ型の流れですから、当面はハイブリッド型の雇用形態を模索する動きが増えると考えられます。デメリットを抑えるためには、人材育成とセットで考えていく必要もあるでしょう。 まとめ 企業にとっては長期的な人材育成、従業員にとっては雇用の安定というメリットがあるメンバーシップ型雇用は、これまでの日本企業の強みを生み出す源泉だったと言えます。しかし、2000年代以降のグローバル化、IT化による産業の変化に対応し組織の競争力を上げるために、専門性や生産性を高めやすい方法としてジョブ型雇用が検討され始めました。 ジョブ型雇用は、変化が激しく雇用が流動化した環境下において、企業と個人の双方にメリットをもたらすこともできると期待されています。メンバーシップ型雇用が機能しづらくなっている現在、企業はジョブ型雇用のメリットをうまく取り入れて、時代に合わせて雇用のあり方を最適化する必要があるでしょう。 JOB型雇用 ジョブ型雇用 メンバーシップ型雇用 日本型雇用