コラム
ワインで対談
なぜ日本のHRテックは米国から10年遅れたのか – HRテクノロジーコンソーシアム香川憲昭さん × セレブレイン高城幸司
セレブレインのコンサルタントとゲストが、ワインと料理を楽しみながら人事について本音で語り合う対談企画。第一回ゲストは、HRテクノロジーコンソーシアム(LeBAC)副代表理事ファウンダーであり、株式会社ジンズ、株式会社Gunosyを経て、2017年9月より株式会社ペイロールの取締役に就任された香川憲昭さん。HRテクノロジーコンソーシアム(LeBAC)の成り立ちや、日本におけるHRテクノロジー事業の課題と展望についてお話を伺いました。聞き手は、セレブレイン代表取締役社長・高城幸司が務めます。
第1回ゲスト:香川憲昭さん略歴
1994年京都大学法学部卒業後、KDDI入社。事業開発本部を経験後、2001年に株式会社ドリームインキュベータに入社しベンチャー支援に携わる。2007年、株式会社ジンズへ転職。店舗オペレーション、人事責任者として人材育成、教育体系の構築などを手がけつつHRテクノロジーコンソーシアム(LeBAC)を立ち上げる。その後、株式会社Gunosyを経て、2017年1月に株式会社ハイグロース・カンパニーを設立し、デジタルマーケティング事業とHRテクノロジー事業を拡大すべく奔走している。
※2017年9月より株式会社ペイロールの取締役 営業本部 本部長に就任
HRテクノロジーコンソーシアムは小規模な勉強会から始まった
高城:香川さん、セレブレインのグループ会社・セレブールが経営するワインレストラン「あじる亭カリフォルニア」へようこそ。今夜はカリフォルニアのワインと料理を召し上がっていただきながら、HRテックについてざっくばらんにお話できたらと思っています。
香川:嬉しいですね! どんなワインとお料理がいただけるのか楽しみです。
高城:まずは香川さんがHRテクノロジーコンソーシアム(※)を立ち上げた経緯を教えていただけますか?
(※)人事・教育分野におけるテクノロジー活用やデータの分析結果を経営に活かすことを推進する団体。2015年4月に正式発足。正式名称「人事・教育テクノロジー&ビッグデータ分析コンソーシアム」、通称「HRテクノロジーコンソーシアム」。
香川:原点になったのは2012年。前職となる株式会社ジンズで初めて人事としてのキャリアをスタートしたときのことです。経営視点から見てハイレベルな人事組織領域の取り組みを、国内外を問わずリサーチする目的で勉強会を立ち上げることにしたのです。そのときちょうどご縁がありまして、慶応ビジネススクールの岩本先生にご協力をいただけることになったのです。
高城:最初は勉強会という形でのスタートだったのですね。すると、それほど大規模ではなかった?
香川:小規模なところからのスタートでした。それが、回を重ねるたびに集まっていただける人の数が増えてきまして、2014年あたりからHRテクノロジーコンソーシアムとしての活動が本格化してきました。
高城:香川さんがジンズ時代に推し進めておられたHRテックの取り組みに、私たちセレブレインとしても関わらせていただきましたよね。
香川:ええ。すごく大きな気づきをいただいたのが、まさにセレブレインさんとの取り組みでした。クラウドサービスを活用した360度フィードバックもスムーズに導入できましたし、あそこが私にとってのHRテックの原点だったといえると思いますね。
ビッグデータセミナーが大きな転換点に
高城:ではお話を少し中断して、最初のお料理をいただきましょう。あじる亭カリフォルニアで大人気の「カカオニブとキヌアのサラダ」と白ワインからどうぞ。
香川:おっ、これはおいしいですね……。ワインも何だか不思議な色合いですね。
高城:最近はやりのオレンジワインという白ぶどうを赤ワインの製法で作ったワインです。
香川:いいですねえ。
高城:ちなみに香川さんはどんな料理がお好きですか?
香川:最近は釣りに夢中になっていて、食材としても魚が大好物になってきましたね。土日は海に出ていることも多いですよ。今週末もアカハタを狙いにいきます。
高城:いいですね! このオレンジワインはコクがあるので、魚料理にも合うと思いますよ。
さて、HRテクノロジーコンソーシアムのお話に戻りましょう。5年たって、今は比較的HRテックという言葉が世間で話題になってきたと思います。ただ、そうはいっても、まだまだ進んでいないという感覚もあります。HRテクノロジーコンソーシアムの立ち上げ後は、どのような活動をされてこられたのでしょう。
香川:最初の1年くらいは、私がジンズという成長企業に勤めていたこともあって、短期間で急激に成長する企業に特有の人事・組織上の課題やその解決方法をピックアップしたケースを取り上げていました。その翌年あたりから、ビッグデータをビジネスに活用しようというトレンドに着目し、人事データを分析・活用した経営課題の改善提案をテーマにセミナーを開催したのです。それが大きな転換点になりました。
高城:そのセミナーはいつ頃?
香川:2014年くらいですね。それまでの勉強会は20名か30名くらいの規模だったのですが、HR領域におけるビッグデータの活用をテーマにした途端、参加希望者が80名くらいに跳ね上がったのです。
高城:それはすごい! たしかにビッグデータはホットなキーワードでしたね。
香川:これはただごとではないなと(笑)。HRテックのポテンシャルの大きさを肌で感じました。しかも、これはご協力いただいている企業の社長さんに聞いたのですが、今はその頃からくらべても集客力が上がっていて、この1年だけでも参加者が2.5倍くらいになっているそうなんですよ。たしかにHRテクノロジーコンソーシアムとして主催・協力するセミナーの実施回数自体もかなり増えています。
高城:加速度的に注目度が上がってきている印象ですね。注目されているといえば、行政との連携も進んでいますよね。経済産業省主催でHRテックをテーマにしたビジネスプランコンテストなども開催されていて、起業を盛り上げようという機運が高まっています。そうやって行政が応援してくれることについてはどう感じていますか?
香川:時代の流れとうまく寄り添ってきたと思いますね。日本は経済成長の面では踊り場に差し掛かっていて、その中でどうブレイクスルーして次の成長につなげるかということを経済産業省は考えていらっしゃって、そのキーワードになっているのが”生産性の向上”になります。
高城:IoTやAI活用、働き方改革などが叫ばれていますね。HRテックもその一つですね。
香川:そうなんです。ただ、日本では人事組織領域では、テクノロジーはこれまでまったく活用されてこなかったんですね。一方でアメリカに目を向けてみると、10年くらい先を行っているわけです。このままじゃまずいということで、経済産業省も日本におけるHRテックの遅れを大きな課題として捉えておられ、働き方改革の推進ドライバーとして位置づけられています。
高城:だからこそHRテクノロジーコンソーシアムの活動を支援してくれているということですか。
香川:そういうことだと思いますね。
HRテック活用で日本はアメリカよりも10年遅れている?
高城:続いてのお料理はアメリカでは不動の人気料理「ナチョス」です。ピノ・ノワールで作られた赤ワインと一緒にどうぞ。
香川:うわっ、スパイシーですね! これもおいしいです。ワインが飲みたくなる味ですね(笑)。
高城:ピノ・ノワールというと繊細なイメージがあるかもしれませんが、カリフォルニアのピノ・ノワールは濃くてしっかりしたものも多く、こういう刺激的な料理にもマッチしてくれるんですよ。
香川:うーん、たしかによく合いますね!
高城:アメリカつながりで話を戻しますが、どうしてHRテクノロジーの分野は日本とアメリカでそんなに差がついたのでしょう。
香川:いろいろな要素がありますが、日本人特有の人間関係の作り方として、本音と建前がありますよね。上司の愚痴は居酒屋で言うみたいな(笑)。アメリカだとそうではなくて、その場で率直に意見をぶつけ合う文化なんです。結果的に解決するか衝突するかという二択になって、離職率も日本とは桁違いに大きくなります。
高城:そうした雇用の流動性の高さがHRテックの発展を促したということですね。先ほど、日本におけるHRテックの導入のレベルはアメリカより10年遅れているというお話がありましたが、具体的にはどういうところにそれが表れていますか?
香川:たとえば人事システムの根幹を担うものとして評価制度がありますよね。私が入社したばかりのジンズでは、評価が半年から1年のスパンで行われていました。半年で中間評価を出して、1年後に通年の評価を出すわけです。おそらくこれは、日本の企業では比較的多いサイクルだと思います。
高城:そうですね。我々としても人事施策は数多くのお手伝いをさせていただいていますが、やはり半期で評価されている企業が多いですね。
香川:ところが、アメリカだとHRテックを活用して四半期に1回、昨今は月次評価やリアルタイムで評価をするトレンドが広がってきています。ジンズでもセレブレインさんとの取り組みでクラウド型のタレントマネジメントを活用し、集計業務を効率化して四半期に1回の評価を取り入れました。
高城:テクノロジーをうまく活用することで、業務負荷を低減しつつ、新たな仕組みを導入することができるようになったと言うことでしょうか?
香川:そうなんです。私は今、デジタルマーケティングの事業領域にも関わっているのですが、とにかく消費者のスピードが速い。デジタルネイティブ世代は特にそうなんですが、興味関心がすぐ分散してしまうので、瞬間的にココロをとらえていかないといけないのです。
高城:ビジネスのスピードが加速している今、人事領域も変化にあわせてスピードアップしていかなければいけませんね。
香川:人事担当者のあり方も日本とアメリカでは違うんです。人事は専門性が高い仕事なので、日本ではどうしても人事畑でやってこられた方がずっと担当されることが多いです。アメリカも、人事はもちろんプロフェッショナル職ではあるのですが、それ以外にも事業のことをしっかり理解している人が責任者になっていくんですね。日本でも最近になってようやく、経営人事とか戦略人事が大切だと言われるようになりましたが、まだまだだと思います。
マッチングから採用後までサポートするサービスに期待
高城:最後にメインディッシュとして炭火で焼いた「フィレ肉のステーキ」と赤ワインはシラーをあわせましょう。
香川:肉がやわらかいですね! うまみがすごいです。これは贅沢ですね!
高城:あじる亭カリフォルニアに来たら、やはり肉は欠かせません(笑)。
香川:この赤ワイン、辛口でいながら甘い香りもあってステーキにぴったりですね。
高城:カリフォルニアはピノ・ノワールもいいけれど、こういう甘い香りがやっぱり特徴的ですよね。
香川:何だか楽しくなる組み合わせですね。
高城:さて、お話を続けましょう。今後、日本企業はどのようにHRテックを活用していくべきだと考えていますか?
香川:大上段にこうあるべきだと申し上げる立場にはないのですが、HRテックを活用することで、非生産的な業務の解決などを考えてほしいと思いますね。たとえば残業は非生産的で、人生の時間の浪費です。テクノロジーによってそれを可視化することに意味があると思います。
高城:HRテクノロジーコンソーシアムとして、あるいは香川さん個人として、注目していることはありますか?
香川:マッチング技術ですね。これまでは転職するとなると、転職会社のエージェントが持ってくるおすすめ企業3社から選ぶみたいな世界だったわけですが、HRテックの力で思ってもみないところから選択肢が降ってわいてくる。そうなると、知見や経験がもっと付加価値として評価されるようになって、ある一定以上の年齢だと転職しにくいという常識が崩れてくるんじゃないかと思います。
高城:香川さんとして今後取り組んでいきたいテーマは?
香川:いろいろな切り口がありますが、コストをマイナスからイーブンに戻すサービスはわかりやすいので立ち上がるのが早いと思うんです。たとえば退職率を減らすとか、採用コストを低減するとか、面接時間を短縮するとかですね。
高城:たしかに、わかりやすいところから盛り上がっていくでしょうね。
香川:ただ、本当のグロースはその先にあると考えています。今までにない切り口、たとえば採用した後に人材が活躍できるようサポートするサービスなんかはアメリカだと普通にありますが、日本ではまだ聞いたことがありません。採用のマッチング精度を高めつつ、採用後の活躍まで一気通貫でサポートするサービスが立ち上がってくることを期待したいし、私としても注目していきたいと思っています。
高城:興味深いお話、ありがとうございました。ちょうどワインもなくなりましたね。
香川:ワインもお料理も本当においしかったです。ありがとうございました。
高城:こちらこそ、ありがとうございました!
あじる亭カリフォルニア
赤坂・赤坂見附からすぐのアメリカワインと炭火焼きのダイニング。カジュアルなワインから希少性の高いカルトワインまで200種類以上の品揃え。ソムリエ資格をもつシェフがカリフォルニアキュイジーヌとワインを絶妙にマリアージュし、腕を振るっています。
<本日のワインと料理を紹介!>
【一皿目】
・料理:カカオニブとキヌアのサラダ
ダンデライオン・チョコレートとのコラボフェアで誕生した一皿は、カカオニブとキアヌ、二つのスーパーフードを使った夏野菜たっぷりのサラダ。シャキシャキした野菜の食感に、カカオニブとキアヌがアクセントを加えています。
・ワイン:スコリウム・プロジェクト ザ・プリンス・イン・ヒズ・ケイヴス ファリーナ・ヴィンヤーズ カリフォルニア
カリフォルニアに新たな潮流をもたらすニューカリフォルニアの作り手たち。その一人、エイブ・ショーナーが生み出すソーヴィニヨン・ブラン100%のオレンジワイン。柑橘系の爽やかな香りの奥に桃のような甘い香りがわずかに加わって、多層的な芳しい香りが夢心地を誘います。余韻に残るほのかな苦味が、サラダに使われた野菜の苦味に寄り添い見事なマリアージュを演出してくれます。
【二皿目】
・料理:ナチョス
カリフォルニアで大人気の一皿。スパイシーなひき肉、ワカモレ、ピリッと辛めのチョリソーなどのトッピングをトルティーヤ・チップスにのせていただきます。濃厚でボリュームもたっぷり! スパイスとワインが食欲を刺激してくれるので、どんどん食べ進めてしまいます。
・ワイン:アルタ・マリア・サンタ・マリア・ピノ・ノワール2012
栽培家ジェイムス・オンティヴェロスと、ワインメーカー ポール・ウィルキンズが手がけるピノ・ノワール100%の赤ワイン。繊細なイメージがあるピノ・ノワールですが、アメリカのいわゆる”カリピノ”はエレガントでありながらもしっかりとした味わい。独特のスパイシーさがナチョスの濃厚な味わいに溶け込んでお互いを引き立てます。
【三皿目】
・料理:フィレ肉のステーキ
チャコールグリルという炭火を使ってやわらかくジューシーに焼き上げたフィレ肉のステーキ。すっとナイフが入るほどやわらかいのに、肉厚で食べごたえがあり、かみしめると旨味が口いっぱいに広がります。
・ワイン:ピエドラサッシ ピーエス シラー サンタバーバラ
二組の夫婦がオーナーとしてワイン作りを手がける小さなワイナリー、ピエドラサッシ。シラー100%で作られたピーエス シラーは、しっとりと力強く、それでいてまろやか。アメリカらしいぶどうの甘さが感じられる濃厚な味わいです。
ライター・カメラマンの山田井です。HRテックの伝道師ともいえる香川さんは、まさに対談第一回目にふさわしいゲスト! 日本におけるHRテックの歩みをわかりやすくお話いただきました。
そんな対談に合わせるのは、HRテックの本場であるアメリカの風を感じるカリフォルニアワインと料理の数々。個人的に驚いたのはカカオニブとキヌアのサラダとオレンジワインの組み合わせで、思わず「そうきたか!」とうなってしまうすばらしいマリアージュでした。こういう出会いがあるからワインはやめられません!
ナチョスとステーキはアメリカらしいパンチのきいたスパイシーな味わいで、辛口ながらもぶどうの果実味たっぷりの”カリピノ”とシラーが言うまでもなくマッチ! こちらは合わせる前から「こんなのもう絶対おいしいに決まってる!」と期待を膨らませていて、実際に相性抜群でした。次はカベルネ・ソーヴィニヨンも試してみたいですね。
どのワインと料理も、この夏何回でも食べたいすばらしいペアリングでした!