コラム 2017年11月09日 コンサルタントが見たラスベガスで開催のHRテクノロジーカンファレンス最新事情 ~HR Tech Conference & Expo 2017 in Las Vegas~ こんにちは。セレブレインのHRテクノロジーコンサルタントの加藤雄平です。 2017年10月10日~13日の4日間、アメリカのラスベガスで世界最大級の人事テクノロジ―展示会”HR Technology Conference & Exposition” (以下HR Tech Conference)がありました。今年で20年目を迎える大イベントに私も参加してきました。 年々日本国内でも盛り上がりを見せるHR Tech領域ですがアメリカにおけるスケールはその何倍も大きく終始発見の連続でした。本イベントの開催日程は4日間、HR Techに関わるスタートアップ企業から世界を代表する企業まで約350社がブースを出展し多数のセミナーやセッションが開催されました。 一口にHR Techと言ってもカバー領域は多種多様で、パフォーマンス、ラーニング、エンゲージメントサーベイ、タレントマネジメント、ピープルアナリティクス、社員間コミュニケーション、採用支援、勤怠・就業、報酬管理等合計20以上の領域のサービスが集結していました。 そのような最先端のHR Techサービスがずらりと並ぶ貴重なイベントで経験したことを3つご紹介いたします。
ワインで対談 2017年10月29日 米国のHRテックと日本企業の意外なつながりとは – タレンタ石橋慎一郎さん × セレブレイン高城幸司【後編】 セレブレインのコンサルタントとゲストが、ワインと料理を楽しみながら人事について本音で語り合う対談企画。第3回ゲストは、株式会社タレンタCEO・石橋愼一郎さん。ベンチャー支援を始めた経緯や、同社が提供するデジタル面接プラットフォーム「HireVue」について、セレブレイン代表取締役社長・高城幸司と対談しました。 第3回ゲスト:石橋慎一郎さん略歴 IBM、オラクルをはじめとする著名なIT企業において上級管理職を歴任した後、創設時からのパートナーであるサンブリッジ株式会社においていくつもの新規事業を立ち上げてきた。日本におけるテクノロジービジネスの発展を30年以上に亘ってリードし、現在はタレンタ株式会社のCEOとしてHRテックの普及に注力している。 アメリカのHRテックは、かつての日本企業のマネジメントスタイルをベースに開発されている 高城:ここまで、サンブリッジを創業してベンチャー支援をされてきた経緯や、タレンタで展開するサービスについてお話を伺ってきました。ところで、Facebookを拝見したのですが、石橋さんはプライベートでもアクティブですよね。ゴルフとか登山とかヨットとか……。 石橋:今は山に凝ってますね。もともとはゴルフをやっていて、体幹を鍛えるために山に登り始めたらすっかりそっちに夢中になってしまって。体力をつけるために有酸素運動をしようとジョギングを始めましたし、足腰に負担がかからないようにロードバイクを買って自転車もやっています。 高城:いやー、すごいですね。山にはどなたと? 石橋:最近はモンベルとかクラブツーリズムとかのツアーに一人で参加してますよ。レベルがいろいろあって、まだまだ先は遠いです。 高城:ぜひゴルフもまたやりましょうよ。タレンタとセレブレインでゴルフカップを。 石橋:いいですね! 高城:お話を戻しますが、やはり人事の業界ではアメリカが進んでいますよね。日本でもようやくHRの世界にテクノロジーを活用する重要性が認識され始めていますが、石橋さんから見てどんな状況だと思われますか? 石橋:やはりアメリカは進んでいると思います。HRテクノロジーベンダー含め人事政策を支援するさまざまなベンチャー企業が出てきていますので、良いサービスは我々も日本で展開したいと考えています。 高城:まだまだ日本に入ってきていない新しいサービスがたくさんあるということですね。 石橋:一つ、面白い話をしましょう。20数年前、ジャパン・アズ・ナンバーワンといって日本の経済状況が良かった時代がありました。その経済を支えている企業が社員に対して行っていたトリートメントがかなりすばらしいものだったのです。有能な人材をそれなりのポジションにつけて、終身雇用のエンゲージメントを与えることでモチベーションを高めていました。じゃあそのとき、アメリカはどうしていたか。 高城:ふむ。 石橋:アメリカは日本を見て、一生懸命に研究していたのです。そして、日本企業がやっていたことを彼らはシステム化しました。実は今、我々がアメリカから学んで日本に持ってきている製品の多くが、昔の日本の大企業がやっていたことをシステム化したものなんですね。 高城:うーん、なるほど。アメリカ企業のHRテック関連製品が実現しているものは、実は日本人がかつて実践していたことなのですね。 石橋:そうなんです。では日本とアメリカの違いは何なのかというと、アメリカはそういうものをシステム化してインフラを作るのが非常にうまいんですね。 高城:それならHRテックの考え方なんかは日本人にも親和性が高そうですね。 石橋:使いこなすことについて日本人は長けていますからね。ただ、システムという切り口でいうと、やはり3~5年はアメリカに遅れを取っていますね。 ブレイクスルーはコーチングにあり! HRテックで「Work Happy!」の実現を ソムリエ:さあ、メインディッシュです。ポークスペアリブに、ドンキー・アンド・ゴートのグルナッシュを合わせましょう。ここはもともとIT業界で働いていた夫婦が立ち上げたワイナリーで、クオリティは非常に高いです。 石橋:天国ですね、今日は(笑)。このワインは甘めのポークスペアリブにぴったり合いますね。日本だと甘めのスペアリブってあまり食べないですよね。 高城:ナチュールワインということもあって、普通のグルナッシュのイメージよりはさっぱりしていますが、やはり肉との相性は抜群ですね。普段はどんなワインを飲まれるのですか? 石橋:個人的には赤ワインが好きですが、周りに白好きが多いので、シャンパンからスタートして白、赤みたいな流れで飲むことが多いですね。 高城:いいですね! さて、メインディッシュをいただきながらお話の続きを。現在、アメリカではHRテックはどんな時期に入っているのでしょう。 石橋:まだまだ成長期ですよ。びっくりするようなものが次々に生まれています。たとえばスーパーの出入り口にボタンがあって、「良かった」とか「まあまあ良かった」みたいな感想を押すシステムなんかがあるんです。 高城:へえー! 面白いですね。 石橋:こういうのって日本人だとあまり考えないですよね。超多民族国家のアメリカだからこそ、システム化して合理的にお客さんの気持ちを汲み取ろうとするのかもしれません。 高城:しかし、日本からそういったサービスが生まれないというのはなぜなんでしょうね。日本発というのは難しいのでしょうか。 石橋:昔から日本のベンチャーはアメリカで成功しているモデルを日本に持ち込むというのが主流でしたからね。 高城:タイムマシン戦略ですね。日本はガラパゴスなんて言われますが、今後ブレイクスルーするとしたらどういうところが切り口になるでしょう。 石橋:難しい質問ですね。ブレイクスルーといっていいかはわかりませんが、コーチングをどうインフラで活用するのかが切り口になるかもしれません。 高城:というと? 石橋:たとえば新卒で採用した社員が3年で3割辞めるという話があります。それは本人の資質、組織の問題、ビジネスモデルの問題などいろいろな理由があるわけですが、かなりの部分を占めているのが上司との関係性なんですね。コミュニケーションをとって、社員のモチベーションを高く保てるかが重要なんです。 高城:これまではそういうものは仕組みとは別の部分で担保されていたと思いますが、今はなかなかそうもいかないですよね。 石橋:そうなんですよね。課長や部長や社長はタレントマネージャーそのものなんだけど、意外とタレントのマネージができていない。だからこそHRテックで仕組みを作っていくのが重要なんです。よくなでしこジャパンW杯優勝した佐々木則夫監督のことをサーヴァントリーダーといいますが、そういうマネジメントスタイルを実行するためにもHRテックは必要だと思いますね。 高城:石橋さんの今後の目標はどんなことですか? 石橋:タレンタ社は「Work Happy!」というビジョンを掲げています。ハッピーというと幸せ感ととらえられがちですが、僕が思うハッピーはウェルビーイングの世界なんです。つまり、感情としての幸福だけでなく、自分が健康であること、家族が健康であることです。そういうところまでいかないとハッピーとはいえない。アメリカのHRテックを見ていても、やはりウェルネスの領域まで広がってきていると思います。そういう視点で見ると、タレンタ社はすごく裾野が広い面白い会社にしていけるんじゃないかという感覚がありますね。 高城:気持ちの面だけでなく、自分や周囲の健康まで含めて「幸せに働く」ことだというのはすごく納得がいく世界観ですね。ぜひ一緒にHRテックを盛り上げて、「Work Happy!」を実現できたらと思います。本日はありがとうございました。 石橋:こちらこそ、ありがとうございました。 今回のお店 あじる亭カリフォルニア 地下鉄赤坂・赤坂見附からすぐのアメリカワイン専門ダイニング。カジュアルなワインから希少性の高いカルトワインまで200種類以上の品揃え。カリフォルニアキュイジーヌを意識した創作料理がワインと絶妙にマリアージュします。 <本日のワインと料理> 本日お楽しみいただいたワインと料理、そのマリアージュについてご紹介します。 ポークスペアリブ あじる亭カリフォルニア屈指の人気商品。ジューシーで柔らかく、ボリューム満点のスペアリブを甘口のソースでガツッと食べるアメリカンな一皿です。 ドンキー・アンド・ゴート グルナッシュ サンフランシスコのIT企業で働いていた夫婦が新たな挑戦として立ち上げたワイナリーのワイン。フランス・ローヌで技術を学び、2001年からワインを作り続けています。グルナッシュといえばどこか田舎っぽいイメージがあるかもしれませんが、自然派ワインということもあってか、ドライかつさっぱり。脂の多くない肉料理にマッチします。 取材を終えて ライター・カメラマンの山田井です。タレンタの石橋社長は日本のIT業界黎明期からベンチャー支援を続けてこられた方。投資家としてもプレーヤーとしても活躍されているからこその視点で、人事やテクノロジーの現状をお話ただきました。 食事についてもかなりのグルメということで、あじる亭カリフォルニアのお料理とワインをとても楽しまれていた様子。ご用意いただいた品々はどれも完璧なマリアージュで感動しました! どれも良かったのですが、やはり大人気のポークスペアリブは絶品でしたね。ローヌのグルナッシュも合うと思いますが、アメリカのグルナッシュ、しかも自然派ワインということで、また違った雰囲気の面白い組み合わせでした。 今回のマリアージュはどれも鉄板ですので、あじる亭カリフォルニアを訪れたらぜひ一緒に注文してみてほしいですね。
ワインで対談 2017年10月19日 米国のHRテックと日本企業の意外なつながりとは – タレンタ石橋愼一郎さん × セレブレイン高城幸司【前編】 セレブレインのコンサルタントとゲストが、ワインと料理を楽しみながら人事について本音で語り合う対談企画。第3回ゲストは、株式会社タレンタCEO・石橋愼一郎さん。ベンチャー支援を始めた経緯や、同社が提供するデジタル面接プラットフォーム「HireVue」について、セレブレイン代表取締役社長・高城幸司と対談しました。 第3回ゲスト:石橋愼一郎さん略歴 IBM、オラクルをはじめとする著名なIT企業において上級管理職を歴任した後、創設時からのパートナーであるサンブリッジ株式会社においていくつもの新規事業を立ち上げてきた。日本におけるテクノロジービジネスの発展を30年以上に亘ってリードし、現在はタレンタ株式会社のCEOとしてHRテックの普及に注力している。 石橋氏がサンブリッジを創業し、ベンチャー投資を始めた理由 高城:石橋さん、ようこそいらっしゃいました。何でも石橋さんはかなりのグルメだとか。 石橋:食事するのは大好きですね。和食も洋食も、B級グルメから三ツ星まで、僕ほどカバーしている人はいないと自負しているくらいです(笑)。 高城:それはすばらしい! 今夜はぜひカリフォルニアのワインとお食事を楽しんでいただきながら、石橋さんのこれまでのご経歴や日本の人事業界についてお話を伺えたらと思っています。 石橋:こちらこそよろしくお願いします。 高城:石橋さんはIBMやオラクルでプロダクトマネージャーやマーケティング本部長を務められた後、サンブリッジを創業して日本のベンチャーをずっと支援してこられましたよね。そういった取り組みがまさに今花開いているわけですが、そもそもなぜベンチャー投資業務に関する仕事をされることになったのですか? 石橋:サンブリッジは1999年に、日本オラクルの代表だった佐野さんや日本オラクル初代代表のアレン・マイナーと一緒にスタートした会社です。当時、日本のITベンチャーの数は非常に少なかったので、もっと活性化していきたいという思いが背景にありました。 高城:当時からアメリカではシリコンバレーを中心にベンチャー企業が次々に生まれていましたよね。日本との違いは何だったのでしょう。 石橋:シリコンバレーは成功した人がエンジェル投資家になり、次の人に投資するというエコシステムが出来上がっていたからです。そのやり方を日本に持ってこようという発想がサンブリッジのビジョンでした。インフラ、マーケティング営業支援、技術支援という三位一体の支援をすることで、どんどんITベンチャーを成功させてEXITし、リターンを得るというビジネスモデルだったのです。余談ですが……サンブリッジという社名は、日出ずる国としての日本と戦後の日本にとって太陽のような存在だったアメリカ、二つの太陽を結びつけるという意味でサン(太陽)ブリッジ(橋)と名付けました。 高城:そんな由来があったのですね! デジタル面接プラットフォーム「HireVue」は企業にどう活用されているのか 高城:最初のお料理とワインが来ました。 ソムリエ:ベーコンとホワイトマッシュルームをたっぷり入れたほうれん草のサラダです。合わせるワインは最近カリフォルニアでも流行っているナチュールワイン。ブロックセラーズという作り手の白ワインをご用意しました。 石橋:ありがとうございます。……うん、これはおいしい。カリフォルニアテイストですね。ワインのミネラル感がほうれん草の鉄分によくマッチします。 ソムリエ:マルサンヌというぶどう品種を90%使ったワインで、飲みごたえがありますよね。 石橋:カリフォルニアには面白いワインが多いですよね。実は最近、ワインスクールに通っているんですよ。 高城:えっ、そうなんですか。では今日はぜひカリフォルニアのワインを楽しんでいってください。さて、お話を戻しますが、ベンチャー支援を行う上では”目利き”が重要になってくると思います。何かポイントはあるのでしょうか? 石橋:いくつかあります。まず製品そのものの技術バックグラウンドがしっかりしているか、それから優秀な人材がいるか、そして社長がどんな資質の人なのかです。芯はしっかりしているけれど、人の言うことにも耳を傾けられるかどうか?など。そういうところも成功できる要素のひとつですね。 高城:なるほど。確かにそうですね。石橋さんが特に「人」に着目してビジネスを展開されるようになったのはいつ頃からでしょうか。 石橋:人を意識し始めたのはサンブリッジの創業から間もない2000年前半くらいでしたね。リーダー採用を手伝ったり、マーケティング支援をしたりしていたのですが、会社が成長するとそれに伴う”軋み”が出てくることがわかったのです。組織をどう運営するのか、人の評価をどうすればいいのか。そういった課題を解決するために開発された製品が、社員のスキルを可視化する「3Rings」です。 高城:タレンタでは他にも360度多面評価システムの「SilkRoad Performance」やデジタル面接プラットフォームの「HireVue」を提供されていますよね。 石橋:今メインでやっているのは「HireVue」で、これは採用面接をウェブの録画やライブ形式で行うというプラットフォームです。アメリカでもすでに700社くらいの企業が採用しており、大企業も数多く使っています。たとえば某IT企業がAIの研究者をグローバルで採用する際、「HireVue」で数千人を面接し、そこを通過した人をニューヨークに呼んで対面で面接するという方法をとっている事例もあります。 高城:日本ではそういったやり方は受け入れられるのでしょうか。 石橋:時期尚早かなと思ったのですが、ミレニアル世代の若者はスマホで育っていますから、デジタルに対する恐怖感はないようですね。デジタル面接でも自分の意見なりをしっかりと主張できています。すでに大手企業にも「HireVue」を採用いただいているんですよ。ユニークな使われ方をしている企業も多く、とあるサービス業の大手企業では設問の代わりに「ケーススタディ」をHireVueで実施したりしています。設置した具体的なシチュエーションに対して、どういうリアクションや言葉遣い、表情で対応をするかを見て判断するそうです。 高城:それは面白く興味深いですね。デジタル面接ならではですね。他にデジタル面接のメリットはどのようなところにありますか? 石橋:映像の記録が残るので、より多くの人によって判断できます。公平性が高く、その場で議論しながら評価出来るので、ばらつきがなくなるのです。 高城:実は私としては最初、採用ツールとしてのデジタル面接には懐疑的な部分があったんですよ。採用って人がやるべきでしょうと。でもあっという間に普及してきて、分野によっては採用のデファクトスタンダードになるのかもと感じています。業務効率化という点でも、候補者にとっての利便性からも画期的ですよね。 石橋:その意味では大きいですね。会場を用意しなくていいし、応募者と面接官のスケジュールを合わせなくてもいい。わざわざ遠くから来てもらうことがないので、双方にとってメリットが大きいです。 高城:今後は面接全体が置き換わっていくのでしょうか。 石橋:今のところは履歴書やエントリーシートなどのペーパーワーク、または一次面接までを効率化しているのが現実ですが、今後はもっと範囲は広まると思います。 タレンタが提供するサービスはすべて連動している 高城:二皿目のお料理をいただきましょう。 ソムリエ:スクランブルエッグ 雲丹のカプチーノ仕立てにオレンジワインのマサイアソン リボッラ・ジャッラを合わせます。 石橋:ほう、オレンジワインですか! ソムリエ:白ワインを赤ワインの製法で作るもので、ギュッとつまった旨味が雲丹の濃厚さとよく合います。リボッラ・ジアッラという品種はもともとイタリアの品種なんですが、それをカリフォルニアでオレンジワインにしたものです。 石橋:いや、これは本当にすばらしいですね。 高城:石橋さんはお好きなお料理のジャンルは? 石橋:京味系の和食が多いですね。走りと旬と名残の3つを楽しんでいますよ。 高城:ではお話に戻りましょう。御社では今現在「HireVue」や「SilkRoad Performance」、「3Rings」と多様なサービスを展開されていますが、全体としてはどんなビジョンを描いてらっしゃるのですか? 石橋:実はこれらのツールはすべて連動しているんです。既存の社員に対してのHRソリューション製品と採用のソリューション製品は分断されていることが多いのですが、経営者から見ると本来はつながっているべきなのです。 高城:といいますと? 石橋:どういう社員を入れるのかは既存の社員を見て判断しないといけませんし、どういう社員教育を行うべきなのかは、どんな社員が入ってきたのかによっても変わります。また、どういう教育をしてどのように社員を育てるのか、その結果によって次にどういう社員を採用するのかが決まります。 高城:なるほど。採用面接から社員のスキル可視化、そして360度評価……そのすべてをタレンタのサービスがサポートしてくれるというわけですね。 前編では、サンブリッジを創業してベンチャー支援を始めたきっかけから、”人”に注目して数々のHRテックサービスを手がけることになった経緯をお話いただきました。 次回、後編ではアメリカが先行するHRテックが実はかつての日本企業の取り組みと深い関係があったという興味深いお話や、日本が今後HRテックでブレイクスルーを迎えるにはどうすればいいのかという見解などをお聞きします。 お料理の方はいよいよメインディッシュが登場! あじる亭カリフォルニアを代表する肉料理とカリフォルニアワインのマリアージュをお楽しみに! 今回のお店 あじる亭カリフォルニア 地下鉄赤坂・赤坂見附からすぐのアメリカワイン専門ダイニング。カジュアルなワインから希少性の高いカルトワインまで200種類以上の品揃え。カリフォルニアキュイジーヌを意識した創作料理がワインと絶妙にマリアージュします。 <本日のワインと料理> 本日お楽しみいただいたワインと料理、そのマリアージュについてご紹介します。 ほうれん草のサラダ ベーコンとマッシュルームをたっぷりのせたカリフォルニアで大人気のほうれん草のサラダ。日本ではあまり見かけない生のほうれん草の滋味に身体が喜ぶ一皿です。 ブロックセラーズ ラブ・ホワイト カリフォルニアセントラルコーストで栽培されるマルサンヌとルーサンヌを使用した自然派ワイン。フルーティーでさわやかな味わいながら、しっかりした飲みごたえもあり。奥に感じるミネラル感がサラダなどにもマッチする他、単体で飲んでも楽しめます。 スクランブルエッグ 雲丹のカプチーノ仕立て 濃厚な雲丹の香りと風味を楽しめる一皿。とろけるような舌触りと口いっぱいに広がる香り、そしていつまでも余韻として残る深いコク。五感すべてで楽しめる一品です。 マサイアソン リボッラ・ジャッラ イタリアの品種、リボッラ・ジアッラ100%のオレンジワイン。皮と梗を含めて発酵させるスキンコンタクトという製法で作られます。ぶどうのうまみが凝縮しており、同じくうまみ成分の強い料理に完璧に寄り添います。
ワインで対談 2017年9月14日 “顔と名前が一致しない”を解決するサービス「カオナビ」は人事制度をどう変革するのか – カオナビ柳橋仁機さん × セレブレイン高城幸司【後編】 セレブレインのコンサルタントとゲストが、ワインと料理を楽しみながら人事について本音で語り合う対談企画。第2回ゲストは、株式会社カオナビ代表取締役社長・柳橋仁機さん。同社が提供するクラウド人材管理ツール「カオナビ」誕生の背景と、日本の人事の未来について伺いました。聞き手は、セレブレイン代表取締役社長・高城幸司が務めます。 第2回ゲスト:柳橋仁機さん略歴 アクセンチュア、アイスタイルを経てサイバーエージェントのジョイントベンチャー子会社立ち上げに参画。その後、独立し「社員の顔と名前が一致しないを解決する」ことをコンセプトにしたクラウド型人材管理ツール「カオナビ」をリリース。株式会社カオナビ代表取締役社長。 クライアントのニーズを満たす「お皿とお団子戦略」 高城:ここまで、カオナビが誕生した経緯や時代背景などについて伺ってきました。サイバーエージェントのお仕事をきっかけにしてアイデアを発想され、現在ではクライアントが600社にまで増えたということでしたね。ここからはさらに深いお話を伺っていきたいと思いますが、ちなみにワインとお料理はいかがですか? 柳橋:とてもおいしいです。どんどんいけちゃいますね(笑)。 高城:それは嬉しいですね(笑)。ではお話に入る前に、次のワインとお料理をどうぞ。真ダコのマリネ「セビチェ」をご用意しました。さっぱりとしていて、パプリカパウダーでアクセントをつけた料理です。合わせるワインはビリキーノ・ワインズのマルヴァジア・ビアンカ2014です。 柳橋:うーん……これは爽やかでおいしい! マリネともよく合いますね! 高城:マスカットや桃、ミントなどのアロマティックな香りが、セビチェのスパイスとぴったりですよね。 柳橋:先ほどの微発泡スパークリングもよかったですが、こちらもすばらしいです。 高城:夏らしい組み合わせを楽しんでいただきながら、お話の続きを聞かせてください。今後、カオナビとしてはどんな展開を考えられているのでしょう。 柳橋:お客さまからは、カオナビ上であんなこともこんなこともやりたいというご要望をいただいています。たとえば、評価ワークフローを出して評価結果を見たいとか、適性検査の結果を蓄積したいとか、動画研修の履歴を残したいとか。カオナビに人事マスターが入っているので、キャリアに関わる情報をそこに蓄積したいというニーズが想定以上に増えているんですね。顔写真と人事情報を管理するというベーシックな機能を「お皿」とするなら、そこに載せる新しい機能が「お団子」です。このお団子を一つひとつ用意していくのが、今後のビジネス展開になってくると思います。 高城:そういうことは創業当時から考えていたことなのですか? 柳橋:考えていました。僕は開発者なのでデータベース的な考え方が強くありまして、人事のマスター情報をベースにプラットフォーム化したほうが有利だと思っているんです。評価ワークフローとか動画研修履歴とかは人事のマスターデータに紐づくものですから、最初からそこにコミットする機能を作る必要はありません。まずはベーシックなニーズでお客さまを増やして、お団子となる機能は後から増やしていくという戦略でいこうと考えたのです。 高城:なるほど。お皿の機能を充実させつつ、お団子を用意していくと。 柳橋:ただ、お団子の部分は外部パートナーとの連携も含めて考えています。こちらが綺麗で大きなお皿を用意できれば、外部のお団子屋さんとも連携がしやすくなるのではないかと。 高城:基本的な部分をしっかり作り込むことが大事ということですね。どういうところにこだわってらっしゃるのですか? 柳橋:UIやUXにまったく違和感を覚えない世界まで持っていきたいですね。普通にクリックしたときに画面がロードしたり、ちょっと遅いと思ったり、ボタンの位置がわからなかったり……ちょっとでも引っかかりがあるのはダメなんです。何のストレスもなく使える状態にしたいですね。 高城:これまでにも相当改善を進めてこられたわけですね。 柳橋:でもまだ2割だと思っています。できることはまだまだあります。 HRテックで変わりゆく日本の人事業界 高城:それでは最後のお料理とワインです。このケイジャンスパイスチキンはこのお店の人気メニューです。炭火でじっくり揚げているので、ジューシーで柔らかいです。スパイス検定1級を持ったシェフ特製のスパイスが刺激的ですよ。 柳橋:スパイシーでおいしいですね! ふだんは辛いものが好きで、韓国料理や中華料理をよく食べるんです。 高城:そうでしたか! 今度のワインはオレンジワインです。よく合うでしょ? 柳橋:本当ですね。ロゼよりも白寄りですね。……うん、おいしい! 実は赤ワインがあまり得意ではないのですが、これはいけますね。鼻にスッと香りが抜けていきます。 高城:ではそちらを召し上がっていただきながら、今後の日本のHRテックについてお話していきましょう。HRテックを普及させるためには何が重要なのか。 柳橋:僕が創業した頃って、それこそ人事情報をインターネット上に置くのはけしからん! みたいな世界だったんですよ。それが5年間で変わったと感じているので、そこは普及してきたところかなと。 高城:たしかにそうですね。 柳橋:それから、最近は1on1のノーレイティング制度が盛り上がっています。今までは目標管理制度でカチッと目標を決めて達成度を期末に評価していたのが、期初に掲げた目標ってだいたい変わるから、その評価制度は機能しないのでは……という問題意識が出始めているのかなと思いますね。 高城:既存の人事制度にとらわれていた部分がノーレイティングで変わろうとしているのですね。カオナビはそうした動きをどう取り込んでいくのでしょう。 柳橋:ノーレイティングや1on1の機能は、何かしらの方法でカオナビ上で実現しようと決めています。それはお客さまに求められたからではなく、世の中はそうあるべきだと僕が思うからです。システム開発の世界はウォーターフォールからアジャイルに移行しました。人事評価もアジャイルであるべきなんです。 高城:そういう動きについてくる業界というと……。 柳橋:やっぱり圧倒的にIT企業が多いですよね。特にITベンチャーはだいたいGoogleさんの制度を参考にしていますよ。 高城:今後、HRテックが広がっていく中で、アメリカなんかだとすごくたくさんのプレーヤーがいるわけですよね。海外のプレーヤーが日本にも上陸し始めていて、そういう黒船の存在をどう見ていますか? 柳橋:すでにワークデイさんなんかが来ていますよね。ただ、現在日本に上陸してきているサービスは、おもに大企業向けに作られた統合型のパッケージ製品が多く、カオナビとはターゲットやサービスのコンセプトが根本的に違うので、あまり気にしていませんが、いずれにしてもアメリカでは大きな実績を持っているので、HRテックサービスの一つとして注視はしています。 高城:今後、やっていきたいことはありますか? 柳橋:僕は医者の不養生は許されないと思っていて、カオナビというサービスで働き方改革やマネジメントの効率を上げると謳っているんだから、自らもそれを実現していかないといけないと考えています。まず、今やろうと考えているのが、給与据え置きのまま1日の勤務時間を段階的に減らすこと。そのためには社員の生産性を上げるための制度や取り組みが必要で、会議を30分制にするとか、マネージャーを飛ばして役員に直接報告していいとか、いろんなやり方を変えていきたいと思っています。 高城:カオナビ自身も変革の時を迎えているわけですね。 柳橋:北欧に目を向けると、そういう会社がざらにあるんですよ。日本は一人あたりのGDPが世界20位以下なんですが、上位が北欧なんです。生産性が高くて、15時とかに帰るのに年収1千万とか普通にもらっている。一番効率的で一番成果が上がる仕事のやり方をしているんです。 高城:そうした世界を目指すのに日本の人事もHRテック、そしてカオナビで改革していかなければいけませんね。本日はありがとうございました! 柳橋:こちらこそ、おいしいワインとお料理をありがとうございました。 今回のお店 あじる亭カリフォルニア 赤坂・赤坂見附からすぐのアメリカワイン専門ダイニング。カジュアルなワインから希少性の高いカルトワインまで200種類の品揃え。カリフォルニアキュイジーヌを意識した創作料理がワインと絶妙にマリアージュします。 <本日のワインと料理> 本日お出ししたワインと料理、そのマリアージュについてご紹介します。 ポットペラのカルパッチョ 巨大マッシュルームのポットペラをカルパッチョでいただく一皿。ポットペラの独特の食感が生ハムの旨味、オリーブオイルの香りと合わさり、魅惑的な味わいを生み出しています。ポットペラはこの他に炭火焼き、フリットなどの調理法を選ぶこともできます。 ブロック・セラーズ スパークリング シュナン・ブナン ペティアン・ナチュレルという手法で作られたシュナン・ブラン100%の微発泡ワイン。フルーティーかつ爽やかな苦味がアクセントになっており、バランス良好。ビール感覚でするすると飲めてしまいます。あらゆる料理と相性が良さそうですが、今回のポットペラとはまた格別なマッチングを見せてくれます。 真ダコのマリネ「セビチェ」 真ダコをマリネしてパプリカパウダーをアクセントに加えた前菜。ぷりっとして柔らかな真ダコは食感、味わい共に絶品。添えられた野菜が彩り鮮やかで見た目にも楽しい一皿。ほのかに香るパプリカパウダーの甘酸っぱさと苦味が全体を引き締めています。 ビリキーノ・ワインズ マルヴァジア・ビアンカ2014 南イタリアの品種、マルヴァジア・ビアンカ100%で作られた白ワイン。マスカット、白桃、シトラスなどのアロマティックな香りからは、どこか東洋的な雰囲気も感じます。さっぱりとしたミネラル感もあり、スパイスを使った海の幸との相性は抜群でしょう。 ケイジャンスパイスチキン 炭火でじっくり揚げたケイジャンスパイスチキンはボリュームたっぷりで柔らかかつジューシー。スパイス検定1級のシェフがパプリカパウダー、チリパウダー、クミンパウダー、オレガノなどを配合して作った特製ケイジャンスパイスが使われています。 スクライブ シャルドネ スキン・ファーメンテッド カーネロス 白ぶどうを赤ワインの製法で作るオレンジワイン。基本的には白ワインに分類されますが、わずかに感じられるタンニンが味わいをより深く複雑なものにしています。このタンニンと豊かできれいな酸が、ケイジャンスパイスチキンの刺激的なスパイスとマリアージュします。 取材を終えて ライター・カメラマンの山田井です。カオナビの柳橋社長はまさに日本におけるHRテックの盛り上がりを肌で感じてきた人物。この日はユニークなTシャツでご出演いただき、HRテックプレーヤーとしての本音をずばりと語っていただきました。 白ワインがお好きということで、今回のワインはスパークリング、白、オレンジワインと、すべて白ワインのラインで統一。白ワインというオーダーに対してこれだけの種類をサッとそろえてくださるあじる亭カリフォルニアのすごさを垣間見ましたね……! お料理はこちらも夏らしいスパイシーなものが中心。特にケイジャンスパイスチキンは、ほどよいスパイスの辛さがオレンジワインの酸と、クリスピーで香ばしいお肉が微かに感じられるタンニンとすばらしくマッチ! 自分ではまず実現できないマリアージュです。これぞプロの技ですね。
ワインで対談 2017年9月13日 “顔と名前が一致しない”を解決する「カオナビ」は人事制度をどう変革するのか – カオナビ柳橋仁機さん × セレブレイン高城幸司 【前編】 セレブレインのコンサルタントとゲストが、ワインと料理を楽しみながら人事について本音で語り合う対談企画。第2回ゲストは、株式会社カオナビ代表取締役社長・柳橋仁機さん。同社が提供するクラウド人材管理ツール「カオナビ」誕生の背景と、日本の人事の未来について伺いました。聞き手は、セレブレイン代表取締役社長・高城幸司が務めます。 第2回ゲスト:柳橋仁機さん略歴 アクセンチュア、アイスタイルを経てサイバーエージェントのジョイントベンチャー子会社立ち上げに参画。その後、独立し「社員の顔と名前が一致しないを解決する」ことをコンセプトにしたクラウド型人材管理ツール「カオナビ」をリリース。株式会社カオナビ代表取締役社長。 カオナビはサイバーエージェントの人材データベース開発をヒントに生まれた 高城:柳橋さん、ようこそいらっしゃいました。今日はまた、おもしろいTシャツを着ていますね。 柳橋:「顔と名前が一致しない」を解決するのがカオナビのコンセプトですから(笑)。背中側にはカオナビのロゴをプリントしてあるんですよ。 高城:本当だ(笑)。これはいいですね! さて、本日はあじる亭カリフォルニアのワインと料理を召し上がっていただきつつ、カオナビ、そして日本のHRテックについて語り合いましょう。 柳橋:今日を楽しみにしていました。ワインは大好きです(笑)。飲むのはもっぱら白かスパークリングですが。 高城:そうでしたか。お酒はどれくらいのペースで飲まれるのですか? 柳橋:ほぼ毎日ですね。結婚して子どもができてからは自宅で飲むことがほとんどになりましたけど。 高城:毎日ですか! では今夜はカリフォルニアのおいしいワインをぜひ楽しんでください。ところで柳橋さんと最初にお会いしたのはいつ頃でしたっけ。 柳橋:2011年の暮れか、2012年の頭くらいだった気がします。 高城:そうそう。乃木坂のお店でアイスタイルの吉松社長からご紹介を受けたのでしたね。 柳橋:カオナビのサービスをスタートしようとしていた頃でしたね。 高城:カオナビのサービスが生まれたのはサイバーエージェントのお仕事がきっかけですよね。 柳橋:そうなんです。もともとサイバーエージェントさんから「社員の顔と名前を並べられるデータベースがほしい」という依頼があって、システムを開発しました。ですが、最初は開発した僕自身、あまり使い方をわかっていなかったんです。それでサイバーエージェントさんに聞いてみたら、社員が増えてくるとどうしても顔と名前が一致しない人が出てきて、マネジメントしにくい課題があると。他の会社さんからもそういう声を聞くことがあって、じゃあそれを軸にサービスを開発していこうと考えました。 高城:そこから現在に至って……今クライアントは何社ですか? 柳橋:今月で600社を超えました。カオナビをリリースしたのが2012年の春だから、5年ちょっとですね。 高城:我々もいろいろな場所でカオナビの名前を聞くようになってきましたよ。 柳橋:ありがとうございます。 カオナビのビジョンに時代が追いついてきた 高城:最初のお料理とワインが来ました。ポットベラという大きなマッシュルームのカルパッチョとスパークリングワインですね。これは普通のスパークリングよりは泡は控えめかな? 柳橋:これはおいしいですね! スパークリングワインは大好きなんですよ。行きつけのバーでは何かいいことがあったときに友だちとモエ・エ・シャンドンを開けるというのが恒例行事になっています。 高城:いいですね。よくハレの日ケの日なんて言いますが、ワインはハレの日のお酒ですよね。 柳橋:このポットペラ??もおいしいですね。 高城:ポットペラは巨大マッシュルームですね。あじる亭カリフォルニアではカルパッチョ、炭火焼き、フリットという3種類のお料理にしていますが、特にポットペラの旨味と食感を引き立たせるのがカルパッチョなんです。 柳橋:うん、おいしい。ワインもするするいけちゃいますね。 高城:話をカオナビに戻しますが、これだけお客さんが増えてくると、世の中への影響力を実感することもあるんじゃないですか? 柳橋:とはいっても、まだ600社ですからね。まだまだこれからです。ただ、お客さんから「これいいね」とか「使いやすいね」とか言われると、それはダイレクトに嬉しいですね。世の中にはいろいろなタイプの経営者がいると思いますが、僕は完全に開発者タイプなので、作っているものが褒められるのが一番幸せです。 高城:今、人事業界ではHRテックの領域がとても注目されていますが、カオナビはその中で一つのポジションを作っていると思います。 柳橋:それは感じますね。潮目が変わったなと感じたのは、「働き方改革」という言葉が浸透してきた去年くらいからですね。このトレンドが逆流することはないと僕は思っているんです。というのも、日本は今後人口が減ってくるわけで、一人ひとりの生産性を上げることが重要になってきます。そうなると、給与計算とか勤怠管理だけじゃなく、人のスキルや特性を把握するツールが絶対に必要になるというのは、カオナビを立ち上げた当初から主張していたことでした。 高城:カオナビのビジョンに時代が少しずつ追いついてきた感じがありますよね。 柳橋:もう一つ大きいのはリクルートから出資をして頂いたことですね。人事業界でリクルートを知らない人はいません。その企業が当社に出資してHRテック領域に進出してきたことで、HRテックの盛り上がりが本格化してきたことを確信しました。 高城:今いろいろな事例が出てきているところだと思いますが、自分が想定していなかったような使われ方などはありますか? 柳橋:想定していなかったという部分だと、僕はカオナビをマネジメントツールとして位置づけていて、一部のマネジメント層が使うものとして開発していたんですね。ところが、実際には社員全員で使っているというケースが想像以上に多かったんですよ。マネジメント層だけじゃなく、一般の社員同士であっても顔と名前を一致させたいというニーズがあったんだなと気付かされました。 高城:そういう会社って、どういう業界に多いのですか? 柳橋:サービス業が多いですね。異動や配置転換が活発な業界ですから。それから、数百人規模以上の会社。100人くらいの会社だとだいたい顔と名前が一致しますからね。 高城:なるほど。 日本におけるHRテックの盛り上がりと時を同じくして誕生し、急成長を遂げてきたカオナビ。すでに業界で確かな存在感を放っている同サービスですが、今後はどのような展開を見せていくのでしょうか。 次回、後編ではカオナビの戦略とこれからの進化の方向性をさらに深く掘り下げると共に、海外からやってくる”黒船”についてどう考えているのかなどを伺っていきます。 もちろん、ワインと料理も登場。カリフォルニアならではのユニークなワインと料理のマリアージュをお楽しみください。 今回のお店 あじる亭カリフォルニア 赤坂・赤坂見附からすぐのアメリカワイン専門ダイニング。カジュアルなワインから希少性の高いカルトワインまで200種類の品揃え。カリフォルニアキュイジーヌを意識した創作料理がワインと絶妙にマリアージュします。 <本日のワインと料理> 本日お出ししたワインと料理、そのマリアージュについてご紹介します。 ポットペラのカルパッチョ 巨大マッシュルームのポットペラをカルパッチョでいただく一皿。ポットペラの独特の食感が生ハムの旨味、オリーブオイルの香りと合わさり、魅惑的な味わいを生み出しています。ポットペラはこの他に炭火焼き、フリットなどの調理法を選ぶこともできます。 ブロック・セラーズ スパークリング シュナン・ブナン ペティアン・ナチュレルという手法で作られたシュナン・ブラン100%の微発泡ワイン。フルーティーかつ爽やかな苦味がアクセントになっており、バランス良好。ビール感覚でするすると飲めてしまいます。あらゆる料理と相性が良さそうですが、今回のポットペラとはまた格別なマッチングを見せてくれます。
ワインで対談 2017年8月21日 なぜ日本のHRテックは米国から10年遅れたのか – HRテクノロジーコンソーシアム香川憲昭さん × セレブレイン高城幸司 セレブレインのコンサルタントとゲストが、ワインと料理を楽しみながら人事について本音で語り合う対談企画。第一回ゲストは、HRテクノロジーコンソーシアム(LeBAC)副代表理事ファウンダーであり、株式会社ジンズ、株式会社Gunosyを経て、2017年9月より株式会社ペイロールの取締役に就任された香川憲昭さん。HRテクノロジーコンソーシアム(LeBAC)の成り立ちや、日本におけるHRテクノロジー事業の課題と展望についてお話を伺いました。聞き手は、セレブレイン代表取締役社長・高城幸司が務めます。 第1回ゲスト:香川憲昭さん略歴 1994年京都大学法学部卒業後、KDDI入社。事業開発本部を経験後、2001年に株式会社ドリームインキュベータに入社しベンチャー支援に携わる。2007年、株式会社ジンズへ転職。店舗オペレーション、人事責任者として人材育成、教育体系の構築などを手がけつつHRテクノロジーコンソーシアム(LeBAC)を立ち上げる。その後、株式会社Gunosyを経て、2017年1月に株式会社ハイグロース・カンパニーを設立し、デジタルマーケティング事業とHRテクノロジー事業を拡大すべく奔走している。 ※2017年9月より株式会社ペイロールの取締役 営業本部 本部長に就任 HRテクノロジーコンソーシアムは小規模な勉強会から始まった 高城:香川さん、セレブレインのグループ会社・セレブールが経営するワインレストラン「あじる亭カリフォルニア」へようこそ。今夜はカリフォルニアのワインと料理を召し上がっていただきながら、HRテックについてざっくばらんにお話できたらと思っています。 香川:嬉しいですね! どんなワインとお料理がいただけるのか楽しみです。 高城:まずは香川さんがHRテクノロジーコンソーシアム(※)を立ち上げた経緯を教えていただけますか? (※)人事・教育分野におけるテクノロジー活用やデータの分析結果を経営に活かすことを推進する団体。2015年4月に正式発足。正式名称「人事・教育テクノロジー&ビッグデータ分析コンソーシアム」、通称「HRテクノロジーコンソーシアム」。 香川:原点になったのは2012年。前職となる株式会社ジンズで初めて人事としてのキャリアをスタートしたときのことです。経営視点から見てハイレベルな人事組織領域の取り組みを、国内外を問わずリサーチする目的で勉強会を立ち上げることにしたのです。そのときちょうどご縁がありまして、慶応ビジネススクールの岩本先生にご協力をいただけることになったのです。 高城:最初は勉強会という形でのスタートだったのですね。すると、それほど大規模ではなかった? 香川:小規模なところからのスタートでした。それが、回を重ねるたびに集まっていただける人の数が増えてきまして、2014年あたりからHRテクノロジーコンソーシアムとしての活動が本格化してきました。 高城:香川さんがジンズ時代に推し進めておられたHRテックの取り組みに、私たちセレブレインとしても関わらせていただきましたよね。 香川:ええ。すごく大きな気づきをいただいたのが、まさにセレブレインさんとの取り組みでした。クラウドサービスを活用した360度フィードバックもスムーズに導入できましたし、あそこが私にとってのHRテックの原点だったといえると思いますね。 ビッグデータセミナーが大きな転換点に 高城:ではお話を少し中断して、最初のお料理をいただきましょう。あじる亭カリフォルニアで大人気の「カカオニブとキヌアのサラダ」と白ワインからどうぞ。 香川:おっ、これはおいしいですね……。ワインも何だか不思議な色合いですね。 高城:最近はやりのオレンジワインという白ぶどうを赤ワインの製法で作ったワインです。 香川:いいですねえ。 高城:ちなみに香川さんはどんな料理がお好きですか? 香川:最近は釣りに夢中になっていて、食材としても魚が大好物になってきましたね。土日は海に出ていることも多いですよ。今週末もアカハタを狙いにいきます。 高城:いいですね! このオレンジワインはコクがあるので、魚料理にも合うと思いますよ。 さて、HRテクノロジーコンソーシアムのお話に戻りましょう。5年たって、今は比較的HRテックという言葉が世間で話題になってきたと思います。ただ、そうはいっても、まだまだ進んでいないという感覚もあります。HRテクノロジーコンソーシアムの立ち上げ後は、どのような活動をされてこられたのでしょう。 香川:最初の1年くらいは、私がジンズという成長企業に勤めていたこともあって、短期間で急激に成長する企業に特有の人事・組織上の課題やその解決方法をピックアップしたケースを取り上げていました。その翌年あたりから、ビッグデータをビジネスに活用しようというトレンドに着目し、人事データを分析・活用した経営課題の改善提案をテーマにセミナーを開催したのです。それが大きな転換点になりました。 高城:そのセミナーはいつ頃? 香川:2014年くらいですね。それまでの勉強会は20名か30名くらいの規模だったのですが、HR領域におけるビッグデータの活用をテーマにした途端、参加希望者が80名くらいに跳ね上がったのです。 高城:それはすごい! たしかにビッグデータはホットなキーワードでしたね。 香川:これはただごとではないなと(笑)。HRテックのポテンシャルの大きさを肌で感じました。しかも、これはご協力いただいている企業の社長さんに聞いたのですが、今はその頃からくらべても集客力が上がっていて、この1年だけでも参加者が2.5倍くらいになっているそうなんですよ。たしかにHRテクノロジーコンソーシアムとして主催・協力するセミナーの実施回数自体もかなり増えています。 高城:加速度的に注目度が上がってきている印象ですね。注目されているといえば、行政との連携も進んでいますよね。経済産業省主催でHRテックをテーマにしたビジネスプランコンテストなども開催されていて、起業を盛り上げようという機運が高まっています。そうやって行政が応援してくれることについてはどう感じていますか? 香川:時代の流れとうまく寄り添ってきたと思いますね。日本は経済成長の面では踊り場に差し掛かっていて、その中でどうブレイクスルーして次の成長につなげるかということを経済産業省は考えていらっしゃって、そのキーワードになっているのが”生産性の向上”になります。 高城:IoTやAI活用、働き方改革などが叫ばれていますね。HRテックもその一つですね。 香川:そうなんです。ただ、日本では人事組織領域では、テクノロジーはこれまでまったく活用されてこなかったんですね。一方でアメリカに目を向けてみると、10年くらい先を行っているわけです。このままじゃまずいということで、経済産業省も日本におけるHRテックの遅れを大きな課題として捉えておられ、働き方改革の推進ドライバーとして位置づけられています。 高城:だからこそHRテクノロジーコンソーシアムの活動を支援してくれているということですか。 香川:そういうことだと思いますね。 HRテック活用で日本はアメリカよりも10年遅れている? 高城:続いてのお料理はアメリカでは不動の人気料理「ナチョス」です。ピノ・ノワールで作られた赤ワインと一緒にどうぞ。 香川:うわっ、スパイシーですね! これもおいしいです。ワインが飲みたくなる味ですね(笑)。 高城:ピノ・ノワールというと繊細なイメージがあるかもしれませんが、カリフォルニアのピノ・ノワールは濃くてしっかりしたものも多く、こういう刺激的な料理にもマッチしてくれるんですよ。 香川:うーん、たしかによく合いますね! 高城:アメリカつながりで話を戻しますが、どうしてHRテクノロジーの分野は日本とアメリカでそんなに差がついたのでしょう。 香川:いろいろな要素がありますが、日本人特有の人間関係の作り方として、本音と建前がありますよね。上司の愚痴は居酒屋で言うみたいな(笑)。アメリカだとそうではなくて、その場で率直に意見をぶつけ合う文化なんです。結果的に解決するか衝突するかという二択になって、離職率も日本とは桁違いに大きくなります。 高城:そうした雇用の流動性の高さがHRテックの発展を促したということですね。先ほど、日本におけるHRテックの導入のレベルはアメリカより10年遅れているというお話がありましたが、具体的にはどういうところにそれが表れていますか? 香川:たとえば人事システムの根幹を担うものとして評価制度がありますよね。私が入社したばかりのジンズでは、評価が半年から1年のスパンで行われていました。半年で中間評価を出して、1年後に通年の評価を出すわけです。おそらくこれは、日本の企業では比較的多いサイクルだと思います。 高城:そうですね。我々としても人事施策は数多くのお手伝いをさせていただいていますが、やはり半期で評価されている企業が多いですね。 香川:ところが、アメリカだとHRテックを活用して四半期に1回、昨今は月次評価やリアルタイムで評価をするトレンドが広がってきています。ジンズでもセレブレインさんとの取り組みでクラウド型のタレントマネジメントを活用し、集計業務を効率化して四半期に1回の評価を取り入れました。 高城:テクノロジーをうまく活用することで、業務負荷を低減しつつ、新たな仕組みを導入することができるようになったと言うことでしょうか? 香川:そうなんです。私は今、デジタルマーケティングの事業領域にも関わっているのですが、とにかく消費者のスピードが速い。デジタルネイティブ世代は特にそうなんですが、興味関心がすぐ分散してしまうので、瞬間的にココロをとらえていかないといけないのです。 高城:ビジネスのスピードが加速している今、人事領域も変化にあわせてスピードアップしていかなければいけませんね。 香川:人事担当者のあり方も日本とアメリカでは違うんです。人事は専門性が高い仕事なので、日本ではどうしても人事畑でやってこられた方がずっと担当されることが多いです。アメリカも、人事はもちろんプロフェッショナル職ではあるのですが、それ以外にも事業のことをしっかり理解している人が責任者になっていくんですね。日本でも最近になってようやく、経営人事とか戦略人事が大切だと言われるようになりましたが、まだまだだと思います。 マッチングから採用後までサポートするサービスに期待 高城:最後にメインディッシュとして炭火で焼いた「フィレ肉のステーキ」と赤ワインはシラーをあわせましょう。 香川:肉がやわらかいですね! うまみがすごいです。これは贅沢ですね! 高城:あじる亭カリフォルニアに来たら、やはり肉は欠かせません(笑)。 香川:この赤ワイン、辛口でいながら甘い香りもあってステーキにぴったりですね。 高城:カリフォルニアはピノ・ノワールもいいけれど、こういう甘い香りがやっぱり特徴的ですよね。 香川:何だか楽しくなる組み合わせですね。 高城:さて、お話を続けましょう。今後、日本企業はどのようにHRテックを活用していくべきだと考えていますか? 香川:大上段にこうあるべきだと申し上げる立場にはないのですが、HRテックを活用することで、非生産的な業務の解決などを考えてほしいと思いますね。たとえば残業は非生産的で、人生の時間の浪費です。テクノロジーによってそれを可視化することに意味があると思います。 高城:HRテクノロジーコンソーシアムとして、あるいは香川さん個人として、注目していることはありますか? 香川:マッチング技術ですね。これまでは転職するとなると、転職会社のエージェントが持ってくるおすすめ企業3社から選ぶみたいな世界だったわけですが、HRテックの力で思ってもみないところから選択肢が降ってわいてくる。そうなると、知見や経験がもっと付加価値として評価されるようになって、ある一定以上の年齢だと転職しにくいという常識が崩れてくるんじゃないかと思います。 高城:香川さんとして今後取り組んでいきたいテーマは? 香川:いろいろな切り口がありますが、コストをマイナスからイーブンに戻すサービスはわかりやすいので立ち上がるのが早いと思うんです。たとえば退職率を減らすとか、採用コストを低減するとか、面接時間を短縮するとかですね。 高城:たしかに、わかりやすいところから盛り上がっていくでしょうね。 香川:ただ、本当のグロースはその先にあると考えています。今までにない切り口、たとえば採用した後に人材が活躍できるようサポートするサービスなんかはアメリカだと普通にありますが、日本ではまだ聞いたことがありません。採用のマッチング精度を高めつつ、採用後の活躍まで一気通貫でサポートするサービスが立ち上がってくることを期待したいし、私としても注目していきたいと思っています。 高城:興味深いお話、ありがとうございました。ちょうどワインもなくなりましたね。 香川:ワインもお料理も本当においしかったです。ありがとうございました。 高城:こちらこそ、ありがとうございました! 今回のお店 あじる亭カリフォルニア 赤坂・赤坂見附からすぐのアメリカワインと炭火焼きのダイニング。カジュアルなワインから希少性の高いカルトワインまで200種類以上の品揃え。ソムリエ資格をもつシェフがカリフォルニアキュイジーヌとワインを絶妙にマリアージュし、腕を振るっています。 <本日のワインと料理を紹介!> 【一皿目】 ・料理:カカオニブとキヌアのサラダ ダンデライオン・チョコレートとのコラボフェアで誕生した一皿は、カカオニブとキアヌ、二つのスーパーフードを使った夏野菜たっぷりのサラダ。シャキシャキした野菜の食感に、カカオニブとキアヌがアクセントを加えています。 ・ワイン:スコリウム・プロジェクト ザ・プリンス・イン・ヒズ・ケイヴス ファリーナ・ヴィンヤーズ カリフォルニア カリフォルニアに新たな潮流をもたらすニューカリフォルニアの作り手たち。その一人、エイブ・ショーナーが生み出すソーヴィニヨン・ブラン100%のオレンジワイン。柑橘系の爽やかな香りの奥に桃のような甘い香りがわずかに加わって、多層的な芳しい香りが夢心地を誘います。余韻に残るほのかな苦味が、サラダに使われた野菜の苦味に寄り添い見事なマリアージュを演出してくれます。 【二皿目】 ・料理:ナチョス カリフォルニアで大人気の一皿。スパイシーなひき肉、ワカモレ、ピリッと辛めのチョリソーなどのトッピングをトルティーヤ・チップスにのせていただきます。濃厚でボリュームもたっぷり! スパイスとワインが食欲を刺激してくれるので、どんどん食べ進めてしまいます。 ・ワイン:アルタ・マリア・サンタ・マリア・ピノ・ノワール2012 栽培家ジェイムス・オンティヴェロスと、ワインメーカー ポール・ウィルキンズが手がけるピノ・ノワール100%の赤ワイン。繊細なイメージがあるピノ・ノワールですが、アメリカのいわゆる”カリピノ”はエレガントでありながらもしっかりとした味わい。独特のスパイシーさがナチョスの濃厚な味わいに溶け込んでお互いを引き立てます。 【三皿目】 ・料理:フィレ肉のステーキ チャコールグリルという炭火を使ってやわらかくジューシーに焼き上げたフィレ肉のステーキ。すっとナイフが入るほどやわらかいのに、肉厚で食べごたえがあり、かみしめると旨味が口いっぱいに広がります。 ・ワイン:ピエドラサッシ ピーエス シラー サンタバーバラ 二組の夫婦がオーナーとしてワイン作りを手がける小さなワイナリー、ピエドラサッシ。シラー100%で作られたピーエス シラーは、しっとりと力強く、それでいてまろやか。アメリカらしいぶどうの甘さが感じられる濃厚な味わいです。 編集後記 ライター・カメラマンの山田井です。HRテックの伝道師ともいえる香川さんは、まさに対談第一回目にふさわしいゲスト! 日本におけるHRテックの歩みをわかりやすくお話いただきました。 そんな対談に合わせるのは、HRテックの本場であるアメリカの風を感じるカリフォルニアワインと料理の数々。個人的に驚いたのはカカオニブとキヌアのサラダとオレンジワインの組み合わせで、思わず「そうきたか!」とうなってしまうすばらしいマリアージュでした。こういう出会いがあるからワインはやめられません! ナチョスとステーキはアメリカらしいパンチのきいたスパイシーな味わいで、辛口ながらもぶどうの果実味たっぷりの”カリピノ”とシラーが言うまでもなくマッチ! こちらは合わせる前から「こんなのもう絶対おいしいに決まってる!」と期待を膨らませていて、実際に相性抜群でした。次はカベルネ・ソーヴィニヨンも試してみたいですね。 どのワインと料理も、この夏何回でも食べたいすばらしいペアリングでした!
コラム 2017年6月20日 戦略的採用が企業の命運を左右する―その2 適時に適所の適材を確保する戦略的サーチ型の採用が企業の生き残り競争にとって不可欠であることは、前回のコラムで述べた。今回は、適材の採用が必ずしも日々変化する事業戦略と直結しない形で進んでいる企業も多い点について考えてみたい。例えば人事部門による新卒やキャリアの定期採用がそれにあたる。通常応募の母集団を形成し、能力や適性を定型的なテストや面接で判断するプロセスを経て内定から入社に至る。このような採用フローの場合、近い将来、人事部門のスタッフの代わりにAIなどのHRテックを活用することで、採用プロセスの適正化、簡略化、迅速化、省力化が図られていくと思われる。 その一方、会社の経営戦略上重要な新規事業を経営陣が決断したケースを考えてみたい。もちろん、大手企業であれば社内に隠れた適材が存在する可能性もあり、適材候補を外部に派遣したりトレーニングなどで対応させる方法もある。しかし問題は時間である。現代のスピード社会では、数ケ月の遅れが事業の立ち上げに致命的なロスとなる可能性がある。大手企業でも難しい新規の市場、事業、技術などの領域における適材の確保は、中堅企業の場合、なおさら早い段階で外部に目を向け、経営方針と採用を一体化させた戦略的な採用を実践することが現実的で効果的である。 当社がコンサルティングを担当した戦略的採用の一例を紹介する。BtoCの企業A社の経営陣が新たにFintech事業を推進することを検討していたが、消費財を中心とした事業形態ということもあり、金融、ITに経験や知見のある人材が社内に少なかった。戦略コンサルティング会社にコンタクトしたが、提案の内容がA社の思惑と異なっていたため、自社内で事業ノウハウを集約させ内政化することになった。そこでFintech事業の早期立ち上げに中心的な役割が期待できる外部の人材を招へいする案件について相談を受けた。サーチコンサルティングのプロセスとして、会社全体の事業の方向性とFintech事業の位置づけ、組織体制、人材の状況、将来の事業ビジョンなどについて、経営トップ以下幹部層にも詳細なヒアリングを実施した。さらに、人材マーケットの現状に加えFintech関連業界や職種に関する情報と知見を提供し、A社にとって最適と思われる人材像を共有した上で、サーチを開始することになった。 このような戦略的採用のプロセスでは、直接経営トップや事業部門トップと連携し、迅速な意思決定で入社に至るケースが多い。ただし、入社後に人材が活躍できる環境づくりの面では、通常の定期採用をしている人事との協力体制が不可欠である。もちろん企業の経営と事業に直結する視点で戦略的なピンポイント採用するプロセスは、AIなどのHRテックでは置き換えることが困難で、人事部門の存在価値につながる。人事部門の全面的サポートにより戦略的に採用した人材が活躍してこそ、事業競争に生き残ることができる。 最後に、サーチコンサルタントとして重要視しているのは、経営トップとのケミストリーなど、表面的に見えにくいポイントである。人材が入社後、経営陣とシナジー効果を発揮できるかどうかを検証し、アドバイスすることがコンサルタントにとって欠かせない価値の提供である。また時間と労力とお金を費やした戦略的採用人材は、入社がゴールではなく、あくまでスタートであり、その後の定着、活躍に至るまで、コンサルタントが一定のフォローを行うことで事業の実効性を高めることにつながると言える。
コラム 2017年5月15日 戦略的人材マネジメントを考える 多くの企業では、製品開発、製造、販売、流通などあらゆる事業領域のグローバル化に加え、AI、IOT、VRなどテクノロジーの進化に伴うビジネスモデルの変革が進む中、企業の内外に適応可能な人材の絶対数が不足している状況にあります。一方、働き方改革における雇用・労働関連法の見直し、有効求人倍率が高まる状況下の就職や転職への意識の変化など、企業の人材マネジメントに立ちはだかる課題は多様化かつ複雑化しています。 今回は、ますます多様化、複雑化するビジネス環境の中で、企業は人材マネジメントについてどのような方針や施策で対応すべきなのかというテーマで考えてみます。 人材マネジメントにおける最初の課題に人材の採用があります。一般的に、大手有名企業は、思い通りに優秀な人材の採用ができているように思えますが、必ずしもそうとはいえないケースも多く、あまり名を知られていない中小企業の中に毎年優秀な人材を採用できているという事実を認識する必要があります。 一方、採用した後の状況に目を移してみると、名の通った企業でありながら離職率の高い企業がある一方で、知名度と待遇が高いとは言えない企業に優秀な人材が定着しているケースもあります。つまりこれらのケースの中に人材マネジメントのヒントがあるのです。 戦略的人材マネジメントは、企業の成長や進化、時に変革を促す適材と適所の在り方を効果的にマネジメントするために不可欠な施策です。しかしながら企業によっては、事業計画に即した人材マネジメントが不十分で、ビジネスの波をとらえきれず成長機会を逃すケースが多く見受けられるのです。 多くの企業では新卒や中途採用などの「リクルーティング」活動を実施しています。自社の将来に必要な能力や資質を持った候補者を様々な手段で募集し、一定のプロセスにより選考を行い。一定枠の人数を採用する活動で、候補者の「募集力」が重要であり、知名度や資金力のある大手企業に有利な汎用的採用活動と言えます。 一方、企業が事業計画を推進する上で、強化が必要とされるミッション、職種、ポジション、期待される成果などを明確にして人材を選抜する採用は、ターゲットセレクションとも呼ばれる「ハイヤリング」活動であり、「採用決定力」が重要で、採用に対する柔軟性、迅速性、一体性がある中堅企業やオーナー企業にとって、有利な点がある戦略的採用活動です。 「リクルーティング」と「ハイヤリング」を明確に認識して採用活動を行っている企業は、まだまだ多数とは言えません。例えば、戦略的採用で実績を上げているある企業では、人事担当者だけではなく、経営者や幹部クラスも社外の人材情報にアンテナを張り、優秀な人材の情報があれば、自ら出向いて、自社の事業やビジョンをアピールし、勧誘することもあります。仮に、その時点で入社に至らなくても、次期有望人材として継続的にコミュニケーションが可能な状態をつくっています。 戦略的な「ハイヤリング」活動を実践するには、業界や候補者の動向に対する知見、サーチと面談のスキル、活動のための時間などが必要であり、一朝一夕に実現できない企業が多いのはやむを得ないと思います。そのような場合、私たち人材サーチコンサルタントとの連携により実効性のある「ハイヤリング」を検討いただくことがあります。 サーチコンサルタントは、企業の特性や事業計画における不可欠な人材のニーズを把握し、一定期間の間に適任と思われる候補者をピンポイントでサーチしてリスト化します。リストする候補者は、人材会社等に転職登録されていない現職人材が多く、候補者が転職の意志を固めるまで企業の経営幹部とのカジュアルなミーティング機会をもつなど慎重にコミュニケーションをとる過程が重要となります。したがって採用に至るまで長期間を要する場合もありますが、重要なポジションほどミスマッチが許されないので、入社後に「知らなかった」という事態にならないためにも十分な情報共有の時間を持つことは必然と言えます。 戦略的「ハイヤリング」では、採用のプロセスも重要ですが入社後のオープンな受け入れ環境づくりも欠かせません。人材マネジメントにおける採用や定着の課題は、人事部門だけでなく、経営者、組織の責任者をはじめ企業全体の重要なミッションという風土を醸成することで、レベルアップさせることが可能なのです。
コラム 2017年5月11日 メンター制度の落とし穴と運用のポイント 多くの企業では、ゴールデンウィークが明けると、研修を終えた新入社員がそれぞれの配属先で新たに業務をスタートする。彼らにとっては、期待、緊張、不安そして「自分は本当にこの仕事に向いているのだろうか?」と悩む時期でもある。日本生産性本部が実施している新入社員・春の意識調査(2016年度)によると、『これからの社会人生活が不安だ』という回答が52.4%で過去最高という調査結果が出ている。 こうした不安を取り除き、新入社員が早期に組織の一員として戦力となることを支援する施策にメンター制度がある。メンターは新入社員に限らず、さまざまな階層の人材育成場面で活用されているが、近年は新入社員(以下、新人)のサポート役として年齢の近い先輩社員をメンターとして指名し、職場への早期適応を図ることを目的としているケースが一般的で、業務知識や技術の習得以外に早期離職の防止、人間関係構築などの狙いもある。 実際に厚生労働省「ロールモデルの育成およびメンター制度の導入に関するアンケート調査」では、メンター制度の効果として離職率の低下を挙げた企業が47.5%と、その効果が実証されている。 その一方、メンター制度にはいくつかの落とし穴があることを認識して運用する必要があることを指摘しておきたい。過去のコンサルティングにおいて経験した代表的なケースを三つ紹介する。 一つめは、メンターには業務的、精神的、時間的にかなりの負荷がかかることである。メンター自身にも業務があり、新人を支援するための準備や時間の確保に苦労するだけでなく、メンター自身も成長途上の若手社員であることが多く、人材を育成する責任や難しさの壁にぶつかり適切な指導ができなくなるケースである。 二つめは、メンターとしての意識や姿勢にバラツキが出てることである。そもそもの新人の成長目標が不明確でバラバラの上、コミュニケーションの仕方や指導方法も一貫性がないといったケースである。メンター自身が「何をどこまで指導するべきか?」と迷う一方、新人は「メンターに頼りすぎて迷惑をかけている?」「同期と比較して自分はあまり指導してもらえていない?」などの心配・不満を抱え、本来の目的を達せられないケースである。 三つめは、メンターと新人の相性である。人間同士の間では、ある程度の好き嫌い生じるのはやむを得ないが通常は適切なコミュニケーションで乗り切れる。しかしながら不運にも双方が努力してもどうにも相性が悪いケースがある。そのような相性が悪い状況を放置すると新人の退職につながりかねないケースである。 上記のメンター制度の運用における落とし穴を放置すると制度自体の実効性に影響がでることになる。そこで、落とし穴を回避し、制度を効果的に運用するためのポイントを以下に示したい。 一つはメンターの役割やタスクの明確化とメンターに必要なスキルのトレーニング機会を提供することである。メンターに最も求められるスキルは、「コミュニケーションスキル」であるが、具体的には、新人と信頼関係を築くスキル、新人が自ら考えて行動することを促すスキル、新人の行動を見守り適切にフィードバックするスキルなどである。 これらのコミュニケーションスキルは、学習し、意識して行動しないと習得できないスキルであるため、事前にトレーニングによって強化しておくことが望ましい。 二つ目は、一人のメンターに任せっきりではなく、上司や職場の他の先輩社員さらに全社的には人事部を含めた情報共有とバックアップ体制を整えておくことである。定期的なミーティング、メンター同士の情報交換の場、一定期間後のメンターのフォローアップ研修、新人へのアンケートなどが考えられる。 メンターの語源はギリシャ神話に由来すると言われており、「良き指導者」「信頼できる相談者」などの意味を持つ。その役割を若手社員一人の肩に負わせるのは酷である。組織の未来を担う新入社員の育成は組織全体の重要課題と認識し、そのための仕組みを周到に準備し運用することが、実効性のある「メンター制度」のカギと言える。
コラム 2017年4月26日 関 将宏 働き方改革にはQOWとQOLの向上がカギ 自身の話になるが、子どもが産まれたことをきっかけに、働き方が変わった。その理由は、「凄い速さで成長する我が子の成長を見たい」、「多少でも家事や育児に参加して妻の負担を減らしたい」と思ったことにある。帰宅してやるべきことがあると、おのずと仕事への取り組み方も変わってくる。「今日中に終える仕事の優先順位は?」、「いかに短時間で良いアウトプットを出すか?」、「他のメンバーとの連携は?」など限られた時間の中で最大のパフォーマンスを出すための工夫をしながら仕事を進めるようになり、言うなればQOW(Quality Of Work:仕事の質)が変わった。 働き方といえば、内閣の諮問機関である「働き方改革実現会議」において、残業の上限を月間平均60時間に抑える案や同一労働同一賃金の在り方について議論がなされ、長時間労働の削減に向けた法制化などの取り組みが本格化している。一部企業の中には、従来のノー残業デイに加え、一定時刻に社内の照明やパソコンをシャットダウンするところもあり、その影響は広がっているように見える。しかしながら表面的な「労働時間短縮」や「同一労働同一賃金」は、企業にとってリスクになる可能性も指摘したい。 企業サイドから見た場合、単なる労働時間短縮は、生産性の低下やコスト増をきたす可能性があり、減益の影響は結局社員の処遇低下につながらないか? また「同一労働同一賃金」という言葉には表れない仕事の範囲や責任の重さ、転勤の有無、同一時間内に生み出される成果の量や質の格差に対してどのように対応するのか? これらへの対策を誤ると、頑張って貢献している社員のモチベーション低下を招きかねない。 最近、人事戦略コンサルティングにおいて働き方改革に関連するものが増加傾向にある。例えば長時間労働削減を進める中で、仕事の優先度や緊急度を認識し、無駄を排除してより効率的に時間を活用するための「効果的なタイムマネジメント」や「同一労働同一賃金」を前提としながら納得感のある評価基準に基づく合理的処遇格差の在り方などである。 一方、社員のサイドから見た場合、長時間残業が規制され、これまでは会社に居残って仕事をしているのが残業手当もついて一番楽だと考えていた人にとっては、どうしていいかわからず街をさまよってしまうという「残業難民」状態に陥るらしい。家に居場所がなく、小遣いも減って遊ぶこともできない「残業難民」をターゲットに夜間にアルコールを提供するコーヒーショップや格安の立ち飲み居酒屋が増えているとのことである。 要は「早く退社してこれがしたい」という何かがあれば、残業を抑制するモチベーションにつながるとも言える。ある会社が行った退社後の行動についてのアンケートによれば、25~34歳未婚層の上位は「Webサイトを閲覧する(53.1%)」「テレビを見る(52.5%)」「SNSをチェック/書き込む(31.9%)」といった時間消費型の活動となっていたが、残念ながら時間消費型の活動は残業を切り上げるモチベーションにはなりにくい。一方で「運動やスポーツをする(17.5%)」「資格や習い事、語学などの勉強をする(15.0%)」といった自己投資型の活動を行っている人の回答数が少なめだったのはやや残念な結果と言える。 30代前半の自身の周りの友人の間では、資格取得をめざす人が増えている。簿記やファイナンシャルプランナーなど仕事に活かせる資格を目指す人や色彩コーディネーターやワインエキスパートなど趣味の資格を勉強する人もいる。彼らは異口同音に「大人になってからの勉強は楽しい」と語っており、まさにQOL(Quality Of Life : 生活の質)を上げている。 一億総活躍社会や働き方改革といった耳触りの良い掛け声をだけでは何も生まれない。その当事者である企業は、それらの影響によってもたらされるリスクへの対応に万全を期す必要があり、個々の社員はQOW(Quality Of Work:仕事の質)とQOL(Quality Of Life:生活の質)両面の向上を図ることが求められることになる。 ※引用 日経ビジネスONLINE 「残業が減らないのは家に帰りたくないから」 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/278202/071500043/?P=4&rt=nocnt 株式会社パートナーエージェント 「若手社会人の”アフター5″は?」 http://www.p-a.jp/research/report_35.html