人事施策 2022年11月21日 コロナ禍3年目、働き方の「ニューノーマル」の今 2020年、新型コロナウイルスの感染拡大による非常事態宣言の発令を機に、多くの企業が「ニューノーマル」を旗印に、一斉にリモートワークを導入しました。その後3年目も終盤となり、リモートワークは一つの選択肢として定着し、まさに新しい「ノーマル」となりました。 今回は、多くの企業が推進してきた新たな働き方について、いくつかの取組み事例を紹介します。 [目次] 働き方のニューノーマル、その後 ニューノーマルな働き方への取組み事例 まとめ 働き方のニューノーマル、その後 働き方の「ニューノーマル」とは、主にコロナ禍を契機に、新しいビジネススタイル、職場の在り方などを指して生まれた言葉です。リモートワークのような社員の働く環境の整備だけでなく、顧客との商談、ビジネス上の手続きの在り方、採用の手法、オフィスのレイアウト、各種イベントのデジタル化なども含まれます。 背景には、当面はまだコロナウイルス対策を継続しなければならないという理由がまずあります。さらに、多くの企業がリモートワークを経験したことで、「リモートワークでも問題ない」「リモートワークのほうがむしろ合理的」など、場所や時間にとらわれない働き方が生産性向上につながると認識してきたことも影響しているでしょう。 もちろん、リモートワークでは対応できない業務もあれば、リモートワークで生産性が落ちたという意見もあります。リモートワークに限らず、働き方の多様性に目を向けることで、従来の形にとらわれない、働き方の「ニューノーマル」を実現することが求められてきたのです。単に社員にリモートワークを許可するだけではなく、企業が自社の価値を改めて考え、「働く環境の整備」「IT環境の整備」「業務体制と人事評価」「コミュニケーションの活性化」「健康サポート」などを包括的に行うことが必要になります。 ニューノーマルな働き方への取組み事例 ニューノーマルな働き方では日立製作所や富士通の取組みが注目されましたが、他にも次々と新しい動きが登場しました。 (1)パソナグループ 2020年9月、人材サービス業界大手パソナグループは、本社を東京から兵庫県の淡路島に移転すると発表しました。2024年5月までに経営企画、人事、財務経理などを担う1200人を島内に配置予定としており、2021年末時点で既に希望者350人が淡路勤務に。淡路を拠点とした地方創生事業を打ち立て、「地方創生テレワーク」を推進するほか、内閣府からの受託事業として「地方創生テレワークアワード」の運営も行うなど、テレワークを単なる出勤の代替としてではなく、新たな価値の提案としてうまく事業につなげています。地方への移転はほかにも、災害に対するリスクヘッジ、オフィス費用の低減、従業員が通勤ラッシュから解放されて自然豊かな環境で働けることなどを目的としている、と同社は述べています。 (2)サイボウズ株式会社 IT企業のサイボウズ株式会社はもともと2010年からリモートワークを推進している企業でしたが、コロナ禍によって全社的なリモートワークを経験した結果、従来の体制では情報格差が大きかったことや孤独感にどう対処するかなどの課題を隠すことなくオープンな場で発信してきました。現在では、「テレワークからハイブリッドワークへ」を掲げ、在宅勤務をはじめとしたテレワークと、出社してオフィスで働くオフィスワークを組み合わせた「ハイブリッドワーク」を提唱しています。 (3)株式会社minitts コロナ禍によって多大な打撃を被った飲食業界。国産牛ステーキ丼専門店「佰食屋(ひゃくしょくや)」を運営する株式会社minittsも例外ではなかったものの、早期に2店舗を閉店するという見切りの早さや給付金等の支援策をフル活用することで経営を維持しました。事業を大きくすることよりも、従業員と顧客の満足度に重きをおくため、メニューを1日100食限定と、あえて上限を設ける形態で運営。基本的に昼のみの営業で売り切れ、従業員は残業ゼロ。有給休暇完全取得を実現しています。「家族で晩御飯を一緒に食べられる働き方」を目指すという同社では、多様な人材が正社員として活躍しており業績も順調です。 (4)田辺三菱製薬株式会社 6年連続「健康経営優良法人~ホワイト500~」に認定されている田辺三菱製薬株式会社は、2020年の在宅勤務時に行った従業員意識調査の結果をもとに、特に要望の多かった以下7項目を「働き方カエル宣言」と名づけ、新しい生活様式における働きやすい職場環境づくりに取り組んでいます。 1.感染予防策の徹底(オフィス環境、通勤、勤務形態) 2.会議の見直し 3.脱ハンコ 4.ペーパーワークの大削減 5.拠点のサテライトオフィス化 6.テレワーク環境の整備 7.毎週金曜日のFriday Survey継続(新しい働き方に対する従業員意識調査) その他、LGBTや女性活躍に対する積極的な取り組みや、事実婚・同性パートナーを配偶者と同様の扱いに変更するなど、従業員がより良く働ける環境の構築を積極的に推進しています。 以上、4社それぞれ独自性はあるものの、合理的思考に基づいた判断が企業にも従業員にもメリットをもたらしている点は共通していると言えるでしょう。 まとめ 新型コロナウイルスの感染拡大によって世界中でビジネスのあらゆる面で変化が急速に進みました。さらに、今後は新しい環境にそったニューノーマルな働き方を設計していく必要に迫られています。現在はいわば大きな過渡期に直面しており社内外が混乱しやすい状況です。従業員の健康と働きやすさ、企業の生産性向上を実現できるニューノーマルを社内で検討することはとても重要です。 withコロナ テレワーク ニューノーマル 働き方改革 多様性
人事施策 2022年10月17日 自律型組織を考える(2)「ホラクラシー組織」 ホラクラシー(holacracy)とは役員、部長、課長などの階級や役職がなく、上司・部下といった上下関係もない組織体制のことを指します。従来のヒエラルキー型組織と相反する新しい経営手法として注目されており、生産性の向上やストレスの軽減ほかさまざまなメリットが指摘されています。本記事では、ホラクラシー組織が登場してきた背景、具体的なメリット・デメリットを解説します。 [目次] ホラクラシー組織の特徴とは? ホラクラシー組織が導入された背景 ホラクラシー組織のメリット ホラクラシー組織のデメリット・注意点 まとめ ホラクラシー組織の特徴とは? ホラクラシー組織とは、日本に従来から根づいている「中央集権型・階層型」のヒエラルキー組織に対して、「分散型・非階層型の組織」とも呼ばれます。組織の決定権は一部の上級管理職ではなく、社員が所属するグループに委ねられます。 社員全員に「役割」が与えられグループ内で個々が意思決定を行います。経営に対しても社員全員が発言権をもち、評価や査定も社員全員で実施するケースが多く見られます。 ホラクラシー組織が導入された背景 ホラクラシーは、2007年に米国のIT企業創業者、ブライアン・ロバートソン氏によって提唱されました。背景には世界のグローバル化、デジタル化があります。一部の管理職のみが重要情報を持ち意志決定するヒエラルキー型組織では、市場環境の変化の速さに対応しきれない課題があり、その解決のために創出されたと言われています。 ロバートソン氏の執筆した『HOLACRACY(ホラクラシー)』には、ホラクラシー組織は「55分で33議題の処理をも可能にするプロセスである」とあり、非常に効率的であることがうかがえます。 米国のネット通販企業ザッポスをはじめ世界で数百社が導入しているほか、日本でも不動産テックベンダーのダイヤモンドメディア、民泊情報サイトAirbnbなどが導入し注目を浴びています。 ・ホラクラシー組織とティール組織の違い ホラクラシー組織は「ティール組織」とよく混同されます。ティール組織とは「組織に関わるすべての人のために組織がある」という考えに基づき個々のメンバーが自律的に組織の目的に応じて行動する組織形態です。 ティール組織が広義の、ある意味では抽象的な「概念」であるのに対して、ホラクラシー組織は一つの明確な「ビジネスモデル」を提示しているところが違っており、わかりやすく言うとティール組織を構築する形態の一種として、ホラクラシー組織があると言えます。 ・ホラクラシーの解釈の注意点 ホラクラシー組織はしばしば誤解されますが、社員とグループは会社組織というグループに属するため、必ずしも「フラットな組織」ではなく、グループごとにファシリテーターをたてて進行するなど状況に応じて管理体制もつくるため「管理者がいない」ことにもあてはまりません。 上下関係がないかわりに「ホラクラシー憲法」というルールがあり、グループ運営の仕組みや意思決定のプロセスは規定されています。 ホラクラシー組織のメリット ホラクラシー組織のメリットには以下の点があります。 ・生産性・自律性の向上 意思決定スピードが早くなることで生産性向上につながります。また、社員の役割が明確かつ裁量権があるため自律性につながり、また業務に集中しやすいためモチベーションが上がることも期待できます。 ・多様なアイデアの創出 個々の意見が尊重されるため多様な意見が集まり、コミュニケーションも活発になるため新しいアイデアが生まれやすくなります 。 ・ストレス軽減 上下関係がなくなり、また個々やチームの目的や情報がオープンになるため、理不尽な要求・パワハラ・社内政治などが生じづらくなり、社員がリラックスして役割に集中できます。 ホラクラシー組織のデメリット・注意点 デメリットと注意点としては以下が挙げられます。 ・導入・実施コスト ヒエラルキー型組織は長く社会的に浸透しているため、企業にホラクラシーの考え方や意義を浸透させるには相応の時間を要するでしょう。 ・組織管理がしにくい ホラクラシー組織にはグループのリーダーは存在しないため、組織全体を統括してコントロールすることが難しい面があります。 ・リスク管理に注意を要する 個々の社員が意思決定の権限をもつため、何人もの承認を得るプロセスがない代わりに、リスク判断についても個々の裁量に委ねられる部分が大きくなります。また、情報をオープンにする必要があり、社内の誰もが情報にアクセスできるようになるため、機密情報の管理にも、より注意が必要となります。 まとめ ホラクラシー組織は、市場の変化の速さに対応しやすい非常に効率的、機能的な組織形態だと言えるでしょう。ヒエラルキー型組織から急激にホラクラシー組織に転換することは、評価・処遇の問題や心理的契約等の観点からもハードルは高いのですが、自律型組織を目指すうえでは参考にすべき組織モデルだと言えます。 JOB型雇用 ブライアン・ロバートソン ホラクラシー
人事施策 2022年10月03日 自律型組織を考える(1)「ティール組織」 2014年にフレデリック・ラルー氏によって著され、日本では2018年に英治出版から発行された『ティール組織』。当時、各所のビジネス書大賞で入賞し、瞬くまに日本中に知れ渡りました。あれから4年が経過しましたが、今でもティール組織のセミナーが開かれ、多数の人が集っています。 働く人々の価値観やライフスタイルが多様になり、リモートワークなど働き方の選択肢も増える中、自律型組織をどう構築するかは大きなテーマです。本記事では、そのヒントとして「ティール組織」に再注目してみたいと思います。 本記事ではティール組織とは何か? ティール組織を理解するにあたり必要な組織形態5フェーズの知識、ティール組織にまつわる誤解を解説していきます。 [目次] ティール組織とは? ティール組織に至る5つの組織フェーズ 最も優れている組織とは言い切れないティール組織の3つの誤解 まとめ ティール組織とは? ティール組織とは、社長や上司などのリーダーがマイクロマネジメントを行うのではなく、組織のメンバー一人ひとりが組織の社会的使命を理解したうえで、各現場において自律的に動いていく組織を指します。 ティール組織の特徴はパーパス(組織の存在意義)が明確で、セルフマネジメント(自主経営)とホールネス(全体性)を実現しているところにあり、『ティール組織』の著者フレデリック・ラルー氏は、ティール組織をこれまでの組織とは一線を画す組織形態だとしています。 ティール組織に至る5つの組織フェーズ 組織には発達過程があります。ティール組織は原始的な組織からのフェーズを内包しながら進化してきた組織です。 1.Red(レッド)組織 特定の個人の圧倒的な力でマネジメントする原始的な組織形態です。恐怖支配に近く、マフィアなどが相当します。 2.Amber(琥珀)組織 ピラミッド型の階級があり個々のメンバーの役割が決まっている組織です。命令系統はトップダウンであり個人は階級と役割に応じた仕事に徹します。軍隊などがあてはまります。 3.Orange(オレンジ)組織 組織内にヒエラルキーがありながらも個人の実力によって昇進したり、上意下達だけでなくボトムアップな意思伝達も多少は可能な組織です。一般企業の多くがあてはまります。 4.Green(グリーン)組織 ゆるやかな階級はあるものの、メンバーの意見、自主性がかなり尊重される民主的な組織です。一方で何かを決定する際に全員から合意を得るために時間がかかる傾向があります。NPOなどがあてはまります。 5.Teal(青緑)組織 組織に属するメンバーが、まるで一つの生命体の細胞のように自律的かつ調和的に動く組織です。メンバーたちの裁量権は大きく、一人ひとりが組織の意義を理解しているため、現場で迅速な意思決定ができます。 企業事例としては、「ザッポス伝説」という言葉を生んだ米国のアパレル通販サイト運営企業ザッポス社(Zappos.com)、日本ではクラウドサービスを展開するIT企業サイボウズ社などが知られます。また、書籍『ティール組織』にはさまざまな企業規模の事例が紹介されています。 ティール組織の3つの誤解 ティール組織を目指す際に留意すべき点を紹介します。 ティール組織が最も理想とは言えない ティール組織は進化した組織形態ですが、ほかの組織より優れているとは言い切れません。例えば、災害時などの緊急事態は、大人数を迅速に動かせる指示命令系統の明確な組織が適している場合もあります。また、高い自律性を備えた人材と自律的な風土があってはじめて成り立つため、そうでない従業員が多い場合は、混乱を招く恐れもあります。 ティール組織に至る決まった手法はない ティール組織とは形式ではなくパラダイム(概念的な枠組み)、つまり捉え方なので、ティール組織を実現していくプロセスも多様です。決まった手法は存在しません。そのため、まずは概念を理解した後で、具体的な手法を模索する必要があります。 組織の制度改革が先ではない ティール組織はメンバーが高い「自主性」を持たないと成立しません。会社の存在意義が明確であることも必要です。軸になるのは制度ではなくメンバーと会社との「信頼関係」「意識の変容」です。 ティール組織を実現するにはどうすればよいか ティール組織は、すぐに取り入れるべき組織管理手法といったものではなく、あくまで自律型組織のゴールの1つの形です。企業の存在意義やメンバーの自律性に依るマネジメントが機能すれば、組織のレジリエンスやイノベーションにも寄与するでしょう。しかし、会社のマネジメントのあり方をいきなり大きく変えることは現実的ではありません。 まずは、自律性の高いメンバーを集めて、チーム単位でティール組織を構築することから始めると良いでしょう。会社全体としてはオレンジ組織やグリーン組織であっても、プロジェクトチーム等でティール組織を機能させることができれば、自律的な人材にとってはモチベーションにつながりますし、会社としても、周囲への良い影響を期待できるでしょう。自分の会社では難しい、あるいは関係ないとあきらめるのではなく、従業員が「自律的な働き方」を実際に目にし、考えられるようにしていくことが、自律型組織への第一歩になると言えるでしょう。 セルフマネジメント ティール組織 フレデリック・ラルー ホールネス マネジメント
解説 2022年8月25日 ワークエンゲージメントを解説 昨今は少子高齢化、若い世代のポジティブな転職観などを背景に、大手企業でも優秀な人材に長く働き続けてもらうことが難しくなっています。 そのようななかで注目されているキーワードが「ワークエンゲージメント」です。ワークエンゲージメントの向上は企業と従業員の関係を良好にし、人材の定着にもプラスになります。 本記事ではワークエンゲージメントとは何か? ワークエンゲージメント向上のための施策、活用できるITツールを紹介します。 AI活用 HRテクノロジー エンゲージメント マネジメント
HRTech 2022年8月01日 マネージャーの「課題」に対してAIボットがアドバイス 近年はダイバーシティが進み、多様な人材が働く環境でマネジメントを担っている現場のマネージャーをサポートすることも人事の役割として期待されています。このような状況に対してHRTech領域の市場は大きく成長しており、このような人事業務の一部を担うAIツールの活用も増えつつあります。今回は、現場のマネージャーをAIがサポートするHRTechサービスについて紹介していきます。 AI活用 マネジメント
HRTech 2022年7月15日 Botsで人事の代わりに1次審査 ~AI導入で最適な人材を確保する~ 社会が急速に変化しつつある昨今、さまざまな業種で企業成長の要となる「人材の確保」が課題となっています。日本は少子高齢化により労働生産人口の低下が今後、加速すると言わており、人材獲得競争はますます激しくなるでしょう。 そのような背景もあり、近年は自社に最適な人材を確保するためのAIテクノロジーの導入が進んでいます。本記事では採用プロセスの自動化、潜在的な求職者へのアプローチ、正確なスクリーニングが可能な「AIチャットボット」のメリットを紹介します。 AI活用 人材採用
HRTech 2022年5月02日 “雰囲気”を見える化 職場の生産性の向上には良好なコミュニケーションが必須です。組織の「雰囲気」も生産性を左右する大切な要素。しかし、理想的なコミュニケーションの状態とは可視化が難しいものです。阿吽の呼吸から生まれるコミュニケーション・雰囲気は属人的、主観的、あいまいであり、客観的・定量的に測ることが困難だからです。 近年は職場の「雰囲気」をAIなどの先端技術で「見える化」するツールの開発が進んでいます。本記事では国内外の開発事例を紹介します。 [目次] 職場の雰囲気を可視化・改善するメリット 職場の「いい雰囲気」の例 【海外事例】Moodbit社の「Moodbit」 【国内事例】村田製作所の仮想センサープラットフォーム「NAONA(ナオナ)」 まとめ 職場の雰囲気を可視化・改善するメリット 職場の雰囲気は、その空間に存在する社員(ヒト)と、オフィスの物理的な環境(モノ)の影響を受けています。職場の雰囲気を可視化し、良い雰囲気に改善していくと社員が仕事に集中できるようになるため、さまざまなメリットが期待できます。 社員の労働意欲が向上する 離職率が低下する・職場への定着率が向上する 社員満足度が向上する エンゲージメント(会社への愛着心・思い入れ)が向上する 企業の業績、生産性の向上が期待できる 健康的な経営環境が実現する 職場の「いい雰囲気」の例 では、具体的に「職場のいい雰囲気」とはどんな雰囲気なのでしょうか? 基本は「仕事で関わる人同士がお互いを尊重している」「関わるメンバー全員が理念や事業のゴールを共有し、実現のために一体になって仕事をしている」。良い雰囲気でかつ生産性が上がっている両立の状態が大切です。 社員がお互いの(仕事の先にある)ゴール・目標を大切にしあっている 職場の理念や価値観を尊重することでポジティブな一体感がある 適切なコミュニケーションが交わされている 成功実績の共有やお互いの良い部分を認めあっている メンバーに多様性がありお互いを尊重しあっている 社内だけでなく顧客、取引先などの人たちを大切にし、良好な関係を築けている 【海外事例】Moodbit社の「Moodbit」 ここでは海外事例を紹介します。米国のMoodbit社が開発した『Moodbit』は従業員に定期的に3つの質問を投げかけ、回答してもらうことでリアルタイムな感情を確認します。 会話のテキスト、コンテンツ、トーン分析をベースにした感情感知技術を使用しており、リアルタイムな感情(ストレス、不満、悲しみなど)のレベルの判断が可能です。SlackやTeamsなどのプラットフォーム上で利用できます。結果を踏まえたアクションプランを実施することで社内の雰囲気が改善され、離職率軽減やエンゲージメント向上につながることが期待できます。MoodbitはHR TechXpo 2019でファイナリストに残りました。 【国内事例】村田製作所の仮想センサープラットフォーム「NAONA(ナオナ)」 国内でも社内コミュニケーションを可視化する取り組みがあります。その1つが村田製作所の 仮想センサープラットフォーム『NAONA(ナオナ)』です。 1対1のミーティングでの「発言回数・割合」「会話テンポ」「コミュニケーションスタイル」などを可視化することが可能なため、「上司の傾聴スキルアップ」や「部下の自己開示度アップ」「コミュニケーションスタイルの質のアップ」につながり、心理的安全性の向上・部下の育成促進・生産性の向上といった効果が見込まれています。 今後、技術が向上すれば飲食店などを探す際に「自分が求める雰囲気の店」の検索に活用したり、反対に企業側が自社のサービスの品質を改善するために活用できる可能性もあるでしょう。 まとめ 職場の雰囲気やコミュニケーションの状態は社員のモチベーション、仕事の成果、生産性を高める重要な要素ですが、これまでは直感、感覚、主観で判断する以外あまり方法がなく、施策の効果の再現性にも難があったと言えます。しかし、近年はAIなどの先端技術を活用すれば、データで状況を把握でき、アクションプランまでわかるようになりつつあります。あいまいな「雰囲気」というものを主観+データで判断できるようになるため、人事施策の精度の向上が期待できます。 AI活用 組織風土 雰囲気
解説 2022年4月10日 5分でわかるVUCA時代とOODAループ 現代の社会はVUCA(ブーカ)の時代と呼ばれています。新型コロナウイルス感染症や世界各地で起きる災害や紛争による環境変化、AIなどテクノロジーの進化が社会に及ぼす影響など、社会経済環境の予測が困難な時代という認識を示す言葉です。今回は、VUCAの時代に求められる企業の在り方や人材の資質について解説します。 [目次] VUCAの意味とは? VUCA時代を読み解く VUCA時代に求められる資質と行動 VUCA時代に注目されるOODAループ まとめ VUCAの意味とは? VUCA時代を読み解く VUCAとは「Volatility」(変動性)、「Uncertainty」(不確実性)、「Complexity」(複雑性)、「Ambiguity」(曖昧性)の4つの言葉の頭文字からなる造語です。 キーワードごとに「予測困難」な現状を解説します。 ・Volatility(変動性) IT技術の進化や市場の成熟により消費者ニーズは多様化・細分化しています。既存ビジネスモデルが陳腐化するスピードが速く、企業には常に変化をキャッチアップした斬新な商品開発が求められます。 ・Uncertainty(不確実性) 新型コロナウイルスやロシアのウクライナ侵攻などでも顕著なように、海外の事象も瞬く間に世界経済に影響を与える時代です。ビジネス上も常に想定外の出来事、リスクを引き受ける必要があります。 ・Complexity(複雑性) グローバル化が進むなか経済とそれぞれの国家の文化・法律・慣習とのせめぎあいが起きています。国際政治経済のトリレンマ(国家主権、グローバル化、民主主義は同時に3つ実行できない)理論で考えると、世界市場はますます複雑化すると予測できます。 ・Ambiguity(曖昧性) ネットワーク社会では業界の垣根があいまいになり業界内外から自社の代替サービスが登場してきます。予測には限界があり常にあいまいな状態のなかで意思決定する必要があります。 VUCA時代に求められる資質と行動 VUCA時代に企業・個人が持つべき資質、行動を解説します。 ・明確なビジョン 未来の予測が困難だからこそ「自社・自身がどうあるべきか」というビジョンを明確に持つことが重要です。芯となるビジョンが確立されていれば急激な変化にも柔軟に対応できます。 ・短期間での成果創出 5~10年後の近未来も見えづらい時代なのでスピード感を持って事業を進める必要があります。個々の働き方においても短期間で効率よく成果を上げる能力が必要です。 ・情報収集と実行 常に最新の情報をアップデートし学習する力が重要です。仮説を立てて動きながらも仮説に固執せず、必要があれば速やかに別のプランを打ち立て実行・検証していく力も必要です。 ・多様性・持続可能性を高める 多様化する社会に対応するためには企業内に多様な人材が必要です。また、企業には一事業に固執せず複数の事業を柔軟に手がける力、個人にはどんな組織・環境でも働き続けられる力が求められます。 VUCA時代に注目されるOODAループ VUCA時代に役に立つ思考法に「OODAループ(ウーダ・ループ)」があります。米国空軍で、兵士が現場で速やかに状況判断するために生まれた意思決定プロセスで、PDCAに代わるものとして徐々に広まってきています。 以下の4ステップを「ループ」させるところはPDCAと似ていますが、必ずしもその順序を徹底する必要はなく、経験や状況に応じてスピーディーに意思決定できる点が特徴です。 (1)観察(Observe)→(2)状況判断(Orient)→(3)決定(Decide)→(4)実行(Act) (1)観察(Observe) 事象、市場等の状態を観察する (2)状況判断(Orient) 従来の経験や新しい情報などを分析し、価値判断を含んだ情報にする。状況判断が行えないと判断したら(1)に戻る。 (3)決定(Decide) (2)の判断をもとに、行動を決定する。状況に変化が生じた場合などは(1)または(2)に戻り、再度決定を行う。 (4)実行(Act) 「意思決定」段階で決定した計画を実行する。実行後は(1)に戻る。 (2)(3)(4)については随時(1)の「観察」段階へ戻ることで、意思決定を柔軟かつスピーディーにできます。ただし「状況判断」のプロセスで経験や知見を加えることを前提としているため、ビジネスでは主に中堅社員以上が対象となり、自走を促すプロセスとして導入されています。各段階を可視化しマネジメントに活かす場合はPDCAサイクルの方が向いているでしょう。 ビジネスのサイクルが早まり、テレワークも浸透する昨今では従業員の自走と素早い判断はますます求められています。OODAを学ぶことはVUCA時代に有用と言えるでしょう。 まとめ 新型コロナウイルス感染症による世界経済への多大な影響、テクノロジーの進化により変わりつつある社会の仕組や人々の行動。現代は長期予測はおろか中短期予測も困難なことからVUCA(Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性の意)の時代と呼ばれています。 VUCAの時代には核となるビジョンを持ち、情報収集をもとにこれまでの仮説をときには大胆に再構築し、臨機応変に判断しながら成果を創出していく力が必要です。想定外のことが頻繁に起こるため、必ずしも経営層が最適解を出せるとは限らず、現場の人材が状況を観察しスピーディに判断したほうがよい結果につながるケースも増えていくでしょう。 OODAループは、変化の激しいVUCAの時代に企業や個人がチャンスを掴んだり危機を回避するために役立つフレームワークだと言えます。 OODAループ VUCA
人事施策 2022年3月07日 「ジョブ型雇用」導入事例と運用のポイント [目次] 「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への転換を図る日本企業 ジョブ型雇用導入の際の重要ポイント まとめ 「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への転換を図る日本企業 職務内容を明確に定義して採用を行い、仕事の成果によって評価や処遇を決める「ジョブ型雇用」。 価値観の多様化や、リモートワークへの移行など、ビジネス環境の大きな変化を背景に、ますます注目が集まっています。 今回は、この「ジョブ型雇用」を積極的に導入・推進している企業の事例と、導入のポイントをご紹介します。 ・富士通株式会社の事例 日本と海外で異なる人事制度を運用していた富士通は、2020年に国内1万5,000人の幹部社員について、報酬体系を職責ベースとする『FUJITSU Level』へと切り替えました。2022年キャリア採用、2023年度新卒採用計画においても、ジョブを起点として職種ごとに適した人材の採用をグローバルに展開し、職責や専門性の高さに応じて個別の報酬設定を含む適切な処遇にて迎え入れるとしています。 一般社員についても、労働組合との話し合いを前提に適用を拡大する見込みです。 ・株式会社日立製作所の事例 日立製作所は、現在、全世界で約35万人の連結従業員を抱えており、すでに日本人よりも外国人の比率が上回るグローバル多国籍企業です。2024年度のジョブ型雇用への完全移行を目標に掲げ、国内でも「ジョブディスクリプションの導入・活用の具体化(職務の見える化)およびリスキル教育の強化」を2021年度の重点取り組み事項に挙げ、新卒採用においてもジョブ型インターンシップを導入しました。 ・株式会社資生堂の事例 資生堂の魚谷雅彦社長が「究極の適材適所」と語るジョブ型雇用。すでに課長以上を対象に2014年からジョブ型雇用を導入している資生堂では、対象の管理職社員からも「自分自身のポジションに求められることがよりクリアになっている」と前向きな評価が得られています。 魚谷社長は、従来の日本型雇用は現在の「変化する時代」に合わなくなってきていると述べ、ポストに応じて役割と専門性を明確にすることが多様な人材の公平な人事につながると考えています。 2021年1月からは、総合職の社員3,900人を対象にジョブ型雇用を拡大しました。 ジョブ型雇用導入の際の重要ポイント ジョブ型雇用の導入にあたって重要なポイントは、「ジョブスクリプションの記載内容」と「ジョブ型雇用契約についての従業員への説明」が挙げられます。 日立製作所の事例にあるようなジョブディスクリプションの作成にあたって、企業はこれまでよりも、職種やポジションごとの「職務内容」「達成目標」「責任と権限範囲」を明確にする必要があります。 ジョブ型雇用の導入前はもちろん導入後も、さまざまな局面で従業員に説明をする義務があります。ジョブディスクリプションに記載のない業務を依頼する場合は従業員が納得できる理由を説明しなければなりません。また、ジョブディスクリプションで定義している職務とは異なる職務への配置換えを行うことが簡単にはできないこともあるため、該当する職務の業務量が少なくなった場合や職務自体がなくなった場合を想定して、予めルールを明確にしておく必要があります。 ジョブ型雇用はドライな印象が強いものの、日本において多くの外資系企業がジョブ型雇用のもと優秀な人材を惹きつけ、かつ従業員のエンゲージメント向上も実現しています。重要なのは、雇用契約やジョブディスクリプションの明瞭さと事前の説明の徹底にあると言えるでしょう。 まとめ いわゆる日本型雇用とも呼ばれるメンバーシップ型雇用は、人材を自社に最適化できる長所がありましたが、ジョブローテーションを繰り返すため従業員に専門性がつきにくい短所がありました。また、待遇が横並びになりやすいため、優秀な人材の獲得競争においても弱い立場に置かれることが多くなります。 ジョブ型雇用は、企業側は優秀な人材を市場価値に応じた報酬で採用でき、従業員も専門性を高めていくことが可能な、雇用が流動化している時代にマッチしている雇用形態だと言えます。 ジョブ型雇用の導入を検討する企業は、他社事例をしっかりと確認して詳細なジョブディスクリプションを作成していくことが必要です。あわせて従業員に対して、人事の方針だけでなく、マクロ環境の変化についても情報発信していくことが望ましいでしょう。 ジョブディスクリプション ジョブ型雇用 企業事例 日立製作所 資生堂
人事施策 2022年2月21日 今さら聞けない「メンバーシップ型雇用」と「ジョブ型雇用」 世界経済に暗い影を落とし続けている新型コロナウイルス。一方、アフターコロナを見据えた取り組みとして、これまでの働き方を見直す企業の動きが強まっています。そうしたなかで注目を集めているのが従来の日本型雇用と言われる「メンバーシップ型雇用」から「ジョブ型雇用」への転換です。今回は「メンバーシップ雇用」と「ジョブ型雇用」についておさらいしながら、「ジョブ型雇用」が注目される理由について解説します。 [目次] 「メンバーシップ型雇用」の特徴とは 「ジョブ型雇用」の特徴とは ジョブ型雇用が注目される理由 まとめ 「メンバーシップ型雇用」の特徴とは メンバーシップ型の雇用とは「人」に仕事を割り当てる雇用形態です。日本型雇用とも呼ばれているとおり日本企業で広く浸透しています。 新卒採用の際に特に顕著ですが、メンバーシップ型雇用では採用段階で業務内容や勤務地などが限定されません。「人」あっての雇用契約なので採用基準も「どのくらい成長しそうか」「長く貢献してくれそうか」が重視されます。会社方針による転勤や配置転換に従業員は基本的に従うことになります。 企業にとっては長期的に人材の育成・定着に取り組みやすいメリットがあります。従業員にとっても新型コロナウイルスのような予期せぬ環境変化で事業が縮小しても、雇用が維持されやすいメリットがあります。 一方、メンバーシップ型雇用は生産性の向上や人件費の抑制を難しくする面があります。育成や待遇が横並びになりやすいため、たとえば評価制度や人件費にメリハリをつけて最適化したい、といった場合に制度設計の難易度が上がります。 しかし、厳しい市場競争にさらされる昨今の企業は常に生産性向上や人件費の抑制を求められます。また、従業員の価値観も変化し、不本意な人事ローテーションや年功ベース賃金に疑問を感じた人材が、自分のキャリアを最大限に生かせ、かつ正当に評価してくれる人事制度のある企業に転職するケースも増えています。 このような背景もあり、メンバーシップ型雇用は転換点を迎えていると言われ、かわりに注目を浴びているのが「ジョブ型雇用」です。 「ジョブ型雇用」の特徴とは ジョブ型雇用とは「仕事」に人を割り当てる雇用形態です。採用時は自社が求める成果と必要な職務遂行能力を明確にします。企業と求職者は職務・勤務地・労働時間等に合意して雇用契約を結びます。 企業にとっては獲得した人材に高い専門性と生産性を期待できるメリットがあります。成果ベースでの評価もしやすくテレワークとの相性が良いため、コロナ禍で特に注目を集めることになりました。 従業員にとっては、自分の得意な分野に集中でき、専門スキルを高めやすいというメリットがあります。また、若者や女性なども属性で制限されることなく早期にキャリアを積み上げられる傾向にあり、ダイバーシティが進むとも言われています。 ジョブ型雇用が注目される理由 ジョブ型雇用については内閣府や日本経済団体連合会(以下、経団連)が言及しています。 経団連は、2022年1月18日に発表した『2022年版経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)』で、「ジョブ型」について「導入・活用の検討が必要」と明記しました。 報告では、各企業が自社の事業戦略や企業風土に照らして、組織としての生産性を高めるべく、メンバーシップ型を活かしながらジョブ型を最適に組み合わせた、「自社型」雇用システムをつくり上げていくことが大切だとしています。 過去に記者会見で今後の雇用について「顧客と共に考え付加価値を提供するビジネスモデルへの転換に対応できる人材は日本型雇用システムで育ちにくく、ジョブ型雇用などと組み合わせていくことになるであろう」と発言しています。 すでに資生堂、日立製作所、富士通、KDDI等、ジョブ型雇用の導入を図っている企業も現れています。一方で、多くの日本企業は転換に慎重です。 ダイキン工業の井上礼之会長は、2020年8月の朝日新聞紙上において「遅咲きの人もいる」と、昨今の働き方の変化に懸念を示しています。日本企業の能力開発費が減少傾向であることも懸念点の一つとして挙げられます。 失業率の低さや新卒の育成など従来の日本型雇用の良さも見直される中でのジョブ型の流れですから、当面はハイブリッド型の雇用形態を模索する動きが増えると考えられます。デメリットを抑えるためには、人材育成とセットで考えていく必要もあるでしょう。 まとめ 企業にとっては長期的な人材育成、従業員にとっては雇用の安定というメリットがあるメンバーシップ型雇用は、これまでの日本企業の強みを生み出す源泉だったと言えます。しかし、2000年代以降のグローバル化、IT化による産業の変化に対応し組織の競争力を上げるために、専門性や生産性を高めやすい方法としてジョブ型雇用が検討され始めました。 ジョブ型雇用は、変化が激しく雇用が流動化した環境下において、企業と個人の双方にメリットをもたらすこともできると期待されています。メンバーシップ型雇用が機能しづらくなっている現在、企業はジョブ型雇用のメリットをうまく取り入れて、時代に合わせて雇用のあり方を最適化する必要があるでしょう。 JOB型雇用 ジョブ型雇用 メンバーシップ型雇用 日本型雇用